産経社説の主張は「中国憎し」のなせる業か
香港の中国系紙の論評も、沙鴎一歩が前述した、共産党機関紙の人民日報が論点をすり替えて報道した問題と同じである。「香港は中国の一部」と主張する王氏は一国二制度をどう考えているのだろうか。
「民主派勝利の現実を直視できなければ、民意との距離が開くばかりだ。中国、そして香港の政府とも、一国二制度の下での高度自治を破壊する圧政を改め、民意に歩み寄るべきである」
見出しにも取っていたが、「民意に歩み寄れ」という主張は、産経社説が書くとどこか滑稽でもある。なぜなら、国民の利益よりも国益を重視するのが産経社説の信条だと思うからだ。これも「中国憎し」のなせる業だろう。
「香港への強硬姿勢を改める機会とすべきである」
読売社説は「香港区議選『中国化』を拒む民意の表れだ」と見出しで指摘し、まず香港政府に要求する。
「香港政府は、民主的なプロセスを経て示された民意を重く受け止めねばならない」
読売社説はデモ隊にも要求する。
「デモ隊にも自制が求められる。民主派候補に投票した人も、過激なデモや暴力を肯定したわけではないだろう。選挙前には、デモ隊による交通妨害などで都市機能が麻痺した。同様の事態が繰り返されれば支持を失いかねない」
民主派にとって自制は必須である。このまま抗議活動が暴徒化していくと、中国の軍隊が出動する危険性が増す。最悪の事態だ。大量殺人だけは避けなければならない。
中国政府にはこう求め、訴える。
「中国政府は、香港への強硬姿勢を改める機会とすべきである」
「香港政府がデモ抑圧のために施行した覆面禁止規則について、香港の裁判所は『違憲』と判断したが、中国は判断を容認しない考えを示す。独立した司法制度は『一国二制度』の柱だ。中国の対応は住民の一層の離反を招こう」
中国に民主主義の基本を求めてものれんに腕押しだろう。だが、公器である日本の新聞は主張の手を緩めてはならない。訴え続けることが重要なのだ。ましてや日本は国際社会の一翼を担っている。それに毛沢東に次ぐ権威を手にしたといわれる習近平国家主席もひとりの人間である。多少の道理が分からないはずはない。