第三者委員会の意義とは

しかし、公益事業の場合には異なる面がある。公益事業の多くは、その影響が社会全体、消費者・国民全体に及ぶ。また、多くの場合、何らかの競争制限があり、政府の指導監督の余地が大きい。このような企業においては、経営者による結果責任は限定的であり、その分、ステークホルダーである社会全体に対して十分な説明責任を果たすことが求められる。

例えば、民需向け製造業のような純粋な民間セクター(部門・分野)の企業であれば、主なステークホルダーは株主、従業員、商品の需要者である。そこでの経営の基本方針、経営戦略の策定は、全面的に経営者に委ねられ、その結果について経営トップが全責任を負う。

商品の品質・価格による市場競争が機能している限り、企業の業績、株主価値によって評価される立場の経営者の責任を基本的に重視すべきである。ステークホルダーに対する説明責任も、経営者がその責任を果たすうえで必要な事項の一つである。

不二家をはじめ、これまで私が手掛けてきた第三者委員会の多くは、純粋民間セクターの企業において発生した不祥事に関するものであった。そこでは、委員会の目的を「企業価値の維持・防衛」ととらえ、不祥事によって失われた企業の信頼回復、あるいは、信頼失墜の防止をめざして、経営陣と十分な意思疎通を行い、その基本的な方針を尊重してきた。

もちろん、事実調査の客観性や、原因分析の信頼性、再発防止策の実効性についてはプロとしてのこだわりを持ってきたが、社会の誤解を解消あるいは防止し、マスコミ報道の歪みなどによる不当なバッシングのリスクを最小化することも重要な役割であった。

第三者委員会の活動を通して、当該企業が社会的責任を果たし、社会からの信頼を維持・回復するために貢献してきたとの自負がある。


PANA=写真

一方、今、私が取り組んでいる九州電力の第三者委員会は、純粋な私企業の場合と同列には語れない。電力会社の事業は、公益事業そのものだからだ。とりわけ、地域独占に守られている日本の電力会社の収益は、供給者の選択の余地のない消費者、国民全体の電気料金の負担によるものであり、ステークホルダーは社会全体と考えられる。

電力会社の業務に対しては経産省をはじめとする政府の関与の程度も大きく、経営の裁量の範囲も限定される。また、総括原価方式の下で、原則として事業利益の確保が保障されており、経営者が負う結果責任のレベルは、一般の企業と比較すれば低い。

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九州電力やらせメール事件の全貌

一度事故が発生すれば「制御不能」となってしまう原発の恐ろしさを見せつけられた国民とって、原子力発電事業を担う電力会社、とりわけ原発事業部門が信頼できる組織であるか否かは重大な関心事であり、本件の真相解明、原因分析は、社会が強く求めているものである。

このような第三者委員会においては、企業価値の維持・防衛という観点で、経営者の意向に沿った活動を行うだけではその使命を果たすことはできないのであり、ステークホルダーである社会全体への説明責任を果たすという観点から、依頼者たる企業からの独立性を確保し、客観性、中立性を重視して第三者委員会の活動を行うべきであろう。

この第三者委員会の調査によって、膿を出し切り、社会からの信頼を回復することが、九州電力が企業として再生するための最良の方策である。

それが、今回の一連の問題が表面化して以降も、電力の安定供給のために、不安を抱えながら、日夜業務に取り組んでいる多くの社員も救うことにもつながるのである。

※すべて雑誌掲載当時

(原 貴彦=撮影 PANA=写真)