認知症患者の過去の職業は公務員が多い
「お役所の公務員はボケやすい」——世間ではよくそう言われているようです。
たしかに、長年もの忘れ外来を続けてきて、認知症と診断された方々に過去に就いていた職業を訊くと、「公務員」という答えが返ってくるケースが少なくありません。あくまで私の経験による見立てですが、やはり公務員は「ボケやすい職業」のひとつと言っていいでしょう。
では、いったいなぜ、役所の公務員はボケやすいのか。
これについて、昔から言われているのが「仕事がマンネリで、脳に対する刺激が少ないから」という理由です。
つまり、役所の公務員は、毎日決められた仕事ばかりをいつも通りにやっていることが多い。日々の仕事の進め方で大事なのは、「前例があるかないか」「マニュアルに沿っているかどうか」であり、もしそれに当てはまらなければ、他のセクションに丸投げする。
個人で判断をしたり自分の意見を述べたりする機会はほとんどなく、むしろ、組織の論理を優先して9時から5時まで淡々と仕事をこなす姿勢が奨励される――そんなふうにマンネリ作業ばかりで刺激が乏しい日々を送っているから、認知症になりやすくなってしまうんだ、というわけですね。
もちろん、全員が全員こんなマンネリ公務員というわけではないでしょう。ただ、たしかに脳への刺激が乏しいのはよくありません。なぜなら、刺激が乏しいと脳回路が成長しなくなり、脳の働きが全体的に停滞してしまうからです。
脳の“道路網”は刺激を受けることで太くなる
これについて少し説明しておきましょう。
みなさんご存じのように、脳の神経細胞はシナプスを通じてつながり合い、複雑な網目状のネットワーク、すなわち脳回路を形成しています。そして、何か新しいことを覚えたり経験したりすると、その刺激によってシナプスが伸びていき、神経と神経がつながって新たな脳回路ができていく。これが「刺激によって脳回路が成長する」ということです。
この脳回路ネットワークは「道路網」に似ています。
脳回路の道路は、刺激を受けることで太くなります。最初は細くて狭い道だったとしても、刺激が増えるにつれ、舗装され、拡幅されて、交通量の多い大通りとなっていく。だから、日々多くの学習や経験を重ねて脳に刺激を送っていれば、脳内では日夜さかんに道路工事が行なわれて道がつくられ、たいへんつながりのいい道路網ができあがっていくのです。
よく発達した道路網では、何かの問題を解決しようというときにも近道をしたりバイパスを使ったりしてスムーズに答えにたどり着きやすくなるでしょう。つまり刺激が多いほど、問題解決力が高くて使い勝手のいい脳回路ネットワークができあがっていくことになるわけです。