両親亡き後も4LDKの庭付き一戸建てにひとりで住むのは正しいか

お話を伺うと、長男は小さい頃から発達障害でコミュニケーションに難があり、仕事をすることは難しい状況です。身の回りのことは普通にできますが、経済的には自立は難しい状況です。今は年金生活の両親(父75歳、母73歳)と同居していますが、両親亡き後、生活を維持していけるかが心配です。

「私はいいんですが、私の子供にまで負担をかけるようなことは避けたいんです」

長女は、長男を生涯にわたって経済的に援助しなければならないのではないかと心配しています。母親も申し訳なさそうにつぶやきます。

「この子(長女)には申し訳ないんだけど、お兄ちゃんに多めに預貯金を遺してやらなければならないですね」

私はこう答えました。

「ご両親が亡くなった後、何かあれば、妹さんが頼りになります。それだけに、できるだけ財産は公平に残してあげたいですね。でも、それが難しい場合は、妹さんにある程度がまんしてもらわなければならないでしょう」

兄弟姉妹のうち、1人がひきこもりや障害などで働けない場合があります。その場合、両親はその子に財産を多く遺すことを考えがちです。しかし、経済的な面ばかりでなく、行政の援助を受ける場合や、医療を受ける場合など、さまざまな面で兄弟姉妹の助けを借りる場面が生じます。そのため、できれば公平に遺産を相続するようにすることがベストだと考えています。

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預貯金も自宅も「ひきこもりの子が相続」でいいのか

その際に問題となるのが「自宅」の取り扱いです。多くの場合、働けない子どもと両親が自宅で同居していて、ほかの兄弟姉妹は独立しています。そして、働けない子どもが、独立できないままに自宅に住み続けることになります。

そのため、両親亡き後も4LDKの庭付き一戸建てといった広いスペースの家に1人で住み続ける、といったケースが少なくないのです。両親が亡くなるころには子供たちも40代~50代の年齢になっています。ひきこもりや障害のある人にとっては、引っ越し自体が難しくなり、結果的に広い家に一人で住み続ける、というもったいない状況になってしまいます。遺産分割では、公平性を重視すると、

自宅⇒ひきこもりの子
預貯金⇒ひきこもりではない子

となります。これでは、ひきこもりの子は自宅があるものの、生活費が不足してしまいます。一方、ひきこもりの子の生活を重視すると、

自宅+預貯金⇒ひきこもりの子
ひきこもりではない子は、ほとんどなし

となり、かなりアンバランスな相続となります。これでは、その後に兄弟姉妹の協力が得にくくなります。