WHO(世界保健機関)は、呼吸器系・心血管疾患のリスクを下げるため、冬季でも住宅の室温は18℃以上とするよう強く勧告。高断熱住宅を設計・推進してきた建築士の松尾和也さんは「日本には実質的に無断熱に近い住宅が7割もある。高断熱住宅を新築するのは予算的にムリでも、今の家に高断熱工事をすることはできる」という――。

窓ガラスが結露、床が冷たい、そんな家に住み続けてはいけない

寒さのピークは過ぎつつありますが、この冬、みなさんのおうちは暖かかったでしょうか?

暖房をつけても床が冷たかったり、ガラス窓が結露したり、お風呂場が寒くてヒートショックにならないかと心配したりしませんでしたか。

寒い室内は健康や寿命に影響します。例えば浴室。私は、高断熱住宅を提案する建築士として、ユニットバスではない、昔ながらのタイル張りの浴室を使い続けると、いつヒートショックになってもおかしくない、まるでロシアンルーレットのようだと指摘してきました。

そのように古い一軒家は、マンションに比べて寒いもの。ただ、「木造住宅=マンションより断熱性能が低くて寒い」というのは、もはや古い常識になりつつあります。

20年の木造住宅
写真=iStock.com/Yusuke Ide
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木造でも断熱グレードの3段階G1、G2、G3のうち、G2以上にランクされる住宅なら、マンションと同レベルか、それ以上に室温を高く保てます。

G2とは、冬期の最低体感温度が全国を北から南まで8つにエリア分けした中で「3地域(盛岡市・青森市など)〜7地域(鹿児島市・高知市)で室温が概ね13℃を下回らない性能」。東北地方から沖縄の家であれば、省エネを考慮しながら冬場の室内体感温度13℃以上を保てる性能ということです。

【図表1】住宅ストック約5000万戸の断熱性能(平成29年度)

新築の高断熱住宅がムリなら、200~300万円で高断熱リノベを

これから家を建てる人はぜひG2以上の高断熱住宅にして、そこで夏涼しく冬暖かい暮らしをしてもらいたいですが、この3、4年、「ウッドショック」と呼ばれる木材の高騰があり、注文住宅を建てるのには、それなりに予算がかかるようになってしまいました。住むエリア、住宅の広さにもよりますが、土地代を含まない建設費が最低でも2000万円はかかると考えてください。多くの場合は3000万円台に乗ってくると思います。

それでも、断熱性が高くて光熱費というランニングコストが抑えられることを考えると、数十年にわたるトータルの出費はけっして高くはなりません。現在30代ぐらいでその後50年ぐらい住める家を建てたい人は、ぜひ高断熱の注文住宅か間取り図が決まっている規格住宅をおすすめしますが、今、数千万円で新築の家を建てることを決断できない人は多いでしょう。

しかし、健康や寿命への影響を考えても、高断熱の自宅をあきらめるべきではありません。「新築高断熱住宅が買えないなら高断熱リノベ」という手があります。

築数十年の古い一軒家はもちろん、築20年以上であれば、ある程度お金をかけてリノベーションし、断熱性を高める。これなら予算に応じて数十万からできますし、トータルでも200~300万円ほどで可能だと試算します。現在60代ぐらいで、築30年前後のわが家に老後も住み続けたいというような場合は、ぜひ検討してください。