忘れられない「お化け煙突」の取材

なかでも印象に残っているのは、「希望の煙突」の回で取材したお化け煙突(千住火力発電所)ですね。テプコ浅草館に取材に行った時にお化け煙突の模型があって、これは懐かしいなと。僕ら世代の下町の人間はみんな知っている煙突で、ぜひ描きたいと思いました。

ただ、外観・内観とも写真が残っていなかったんですよね。唯一あったのは、中で働いていた人たちのアルバムに映る背景だけ。当時働いていた方にも連絡を取ってインタビューさせてもらって、なんとか全体像をつかめました。

でも、こんどは情報量が多すぎて困りました(笑)。せっかく取材したからぜんぶ詰め込みたいのですが、そうすると「漫画でわかるお化け煙突」みたいに説明的な漫画になってしまう。あくまでも楽しく読んでもらうことが目的ですから、結局、取材した内容の半分を捨てました。こういう思い切りも必要です。

©秋本治・アトリエびーだま/集英社
(上)「希望の煙突」(141巻)で詳しく解説されたお化け煙突は「お化け煙突が消えた日」(59巻)でも登場。そのエピソードでは子供の頃の両さんと悪友の珍吉、豚平、そのクラスに赴任した臨時教師・佐伯羊子先生との出会いと別れがメイン。あわせて楽しみたい

お化け煙突は昭和初期の話なので、紅月灯という女の子を新たにつくってメインにして、両さんは子供の設定で登場させました。どんな形でも両さんは漫画に登場しますよ。連載皆勤賞ですからね。

(※2)とか早矢(※3)とか好きなキャラクターが出ると僕がそっちばかりを動かしてしまって出番がなかなかつくれないこともありますが、主人公だから出さないわけにはいきません。犬のぬいぐるみをかぶったり、透明人間で雪の上に倒れた跡だけのこともありましたが、なんとかすべての回に登場しています。そういう両さんを考えるのも、僕は嫌いじゃなかったですね。

(※2)擬宝珠纏……両津が住み込みで働く超神田寿司を経営する擬宝珠家の長女で両津のはとこ。両津と結婚寸前まで話が進んだことがある。
(※3)磯鷲早矢……新葛飾署の交通課に勤務する婦人警官。京都の名門「磯鷲家」の長女。声が父親に似ているからという理由で両津に一目ぼれして交際を申し込んだことがある。

©秋本治・アトリエびーだま/集英社
前から三列目の一番左が磯鷲早矢。左から二番目が擬宝珠纏(191巻「暑い時は海!!」)

『ONE PIECE』の人気が衰えないワケ

話を戻すと、こうやって新しいものを取り入れたり、自分で現場に積極的に足を運んだりしているおかげで、アイデアが尽きることはありませんでした。その源泉は、好奇心。「あれはなんだか面白そうだぞ」と楽しみながらやることが、長期連載につながったのだと思います。

永く続いた理由をもう一つ挙げるとしたら、『こち亀』が一話完結だったことも大きかったかな。青年誌の読者は大人なので、わりとじっくり読んでもらえます。一方、少年誌はその週が面白くないと次を読んでもらえません。長く引っ張るのはダメで、毎週山場が必要です。

その点、一話完結は毎回オチがあって、自然に山場ができます。ジャンルでいえばギャグ漫画ですが、人情話をやったり、ストーリーものを挟んだりして変化をつけられたのもよかったですね。

逆にストーリーものは大変でしょう。たとえばスポーツ漫画は、試合が終わると山場がなくなります。それを防ぐために「いままではじつは2軍。次は1軍がやってきた」というように、どんどん盛り上げていく必要があります。

それを考えると『ONE PIECE』の尾田栄一郎くんは本当にすごい。いろんな国で、毎回違うパターンで物語を展開していくでしょう。すごく考えて、命を懸けて描いていることが伝わってきます。人気が衰えないのは納得で、僕も「次はどうなるのか」とワクワクしながら読んでいます。