新星オカシオ・コルテス議員の登場

米国では主流派の新自由主義、あるいはリフレ派に対抗する経済理論としてMMTが頭角を現してきた。主流派はこの理論を「くずだ(garbage)」(ブラロックのラリー・フィンクCEO)と批判するが、元をたどればケインズに源を発するれっきとした経済理論の一つ。

MMTはこれまで理論としては知られていたものの、注目を集めることはほとんどなかった。それを政治の表舞台に押し上げたのは、昨年の中間選挙でNY州から民主党候補として立候補、弱冠29歳、最年少で下院議員に当選したアンドレア・オカシオ・コルテス(AOL)議員だ。

ヒスパニック系の彼女は当選まもない今年の2月、気候変動対策法案を仲間の議員と一緒にまとめた。「グリーン・ニューディール」と呼ばれるこの法案は、環境対策に要する莫大な財源を国債で賄おうとしている。

政治家が政策を掲げる以上、財源を明記する義務がある。オカシオ・コルテスは莫大な財源の調達手段としてMMTを容認したのである。巨大な財政赤字を抱える米国で、新たな国債の発行という主張は一般的には理解されにくい。だが同氏は財政赤字を積み増しても、必要な対策はやるべきだと主張する。

写真=AFP/時事通信フォト
オカシオ・コルテス議員は「MMTこそ絶対にわれわれの言論の中に広がる必要がある」と語っている

このへんは保守の中でも右寄りで、思想や理念で対立するトランプ大統領と相通じるものがありそうだ。財政の健全性より経済成長や国民生活の向上を優先しようとする。思想信条は違っても、考え方は似ている。欧州で左派と右派が連携を強める根拠もここにある。

主流派が批判すればするほど増える賛同者

オカシオ・コルテスの主張に、真っ向から異論を唱えるのはむしろ主流派の人たちだ。リベラリストの代表ともいうべきローレンス・サマーズ元財務長官はMMTを「フリーランチ」と感情的に批判する。その上で「MMTには重層的誤りがある」と理論そのものを否定。前FRB議長のジャネット・イエレンも「MMTは超インフレを招くものであり、非常に誤った理論だ」とサマーズに同調する。

ここに挙げたのはほんの一例にすぎない。いずれも現在の米国や世界経済に大きな責任を有している主流派の官僚や学者、経済人である。この人たちはミルトン・フリードマンの流れをくむ新自由主義あるいはリフレ派を代表するエスタブリッシュメントである。

そんな人たちがポッと出のオカシオ・コルテスの主張に怒りを込めて反論する。主流派が批判すればするほどMMTの賛同者は増える。