内部進学の子どもだけが持つ戸惑い

それについて、小学校の先生は「せっかく小学校で身につけたことを中学校の先生が活かしてくれていないからだ」とか「中学では文法ばかり教えるからだ」と批判するのですが、私がみるところ問題はそこではないと思います。

結局、一貫校といえども多くの場合、英語が一貫教育になっているわけではない。小学校と中学校の接続は難しいのです。明治政府が試みた小学校の英語も、優秀な教員が確保できないことと中学との接続がうまくいかず挫折しました。

現代の私立小学校でも、英語を楽しく学んできた子どもたちは、自分は英語ができると思っているけれども、中学に入って急に難しくなるとついていかれず脱落してしまう場合が多い。一方で、外部から入学した生徒は入試を経ているので勉強の仕方を知っています。つまり自分に合った学習方略がわかっている。だから内部進学の子が戸惑っている間に、あっという間に基礎を習得してしまうのです。

【三宅】なるほど。私立学校で実際にそういうことが起きているなら、まずはその検証を十分行わないといけないということですね。

絶対的に足りていない英語の専門教員

撮影=原 貴彦
イーオン社長の三宅義和氏

【鳥飼】そうです。それとやはり専門の教員を養成しないまま小学校で英語教育をはじめるのは国の政策として無謀です。この点については、著書や取材でも発言していますし、当時の下村文科大臣とお会いした機会にお話をしましたけれども、どうしても話がかみ合いませんでした。

大臣の意図はわかります。裕福でない家庭の子どもでも英語を学べるようにしたい、だから公立小学校で導入するという意図は理解できるのですが、それを実現するのであれば、なおさらしかるべき手順を踏む必要があるはずです。

【三宅】教員の養成ですね。

【鳥飼】はい。このままいくと、英語を教える資格と能力のある教員が絶対的に足りません。そうなると、経済的に余裕のある家庭は子どもを民間の英語塾などに通わせるでしょう。すると塾に通えない子どもは、本来なら外国語を教える資格のない先生から英語を学ぶしかないことになり、不利益を被るわけです。公教育としてそれは問題ですよね。