米国防衛のために日本が何もしないのは非現実的
トランプ大統領は、来日前に米テレビが行った電話インタビューのなかで、米国が攻撃されても日本人はソニーのテレビでそれを見ているだけでいい、というようなことを話している。安保条約の権利義務だけから見れば、あるいはそういうこともいえるかもしれない。
またたしかに、2001年の9・11同時多発テロ事件においてわれわれ日本人は、世界の多くの人々と同様、米国が攻撃される様子を(ソニー製かどうかは別にして)テレビで見た。
だがテレビで見た後、何もしなかったわけではない。すぐにテロ対策特別措置法を作り、アフガニスタン戦争でインド洋に展開する米軍への後方支援(米艦船への給油など)を行っている。その時からすでに18年の時が流れたが、この間の日米同盟の発展――たとえば4年前の「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」再改定など――を考えれば、次に米国が攻撃されるようなことがあった場合に、日本人がテレビを見ているだけで、米国防衛のために行動しないというのは、まったく非現実的な話である。
米国が提案した旧安保条約の改定草案が参考に
もっとも、もしそうだとしたら、安保条約のなかで行動を約束してはどうか、というのがトランプ大統領のいいたいことなのかもしれない。それによって日米同盟が「公平」な同盟であることがより明確になれば、同盟の基盤も抑止力も一段と強化され、両国にとって素晴らしいことではないか。ちょっと甘いかもしれないが、「頭の体操」の意味で大統領がそう考えているとあえて仮定して、安保条約の改定案(再改定案)を考えるとすればどうなるだろうか。
その場合は、いまから約60年前の1958年10月4日、東京で旧安保条約の改定交渉がスタートした際に、米国が日本に提案した改定草案が参考になるだろう。このとき米国政府は、日本が憲法解釈上、海外派兵はできないという事情をよく理解したうえで、「太平洋」において日米両国が互いの領土を守り合う相互防衛の規定を盛り込んだ条約案を提案してきた。
そういう案だと、日本はハワイやグアムの防衛のために海外派兵をしなくてはならなくなる。そういぶかる日本側の交渉者に米国側は、いや日本は憲法上、日本にできることをやってくれればいい。たとえばハワイやグアムを攻撃する敵の飛行機が日本の領空を通る場合は、撃墜してくれればいい、と説明している。
いまならさしずめハワイやグアムのミサイル防衛に協力してくれればいい、というようなことだろうが、ともかく日本ができることをやってくれればいい、というのが米国側の説明だった。