故人そっくりの「遺人形」を拠り所にする遺族
以前、NHKの情報番組で、「遺人形」というものが紹介されていた。「遺人形」とは3Dプリンターを用いて、写真から作成された故人そっくりの人形(フィギュア)である。高さは20~30cmで、素材として特殊な石膏もしくは樹脂が用いられている。番組では、息子を交通事故で亡くした夫婦が、息子の人形に語りかける様子が紹介されていた。他にも、夫をがんで亡くした女性は、人形に日々語りかけているうちに、死を受け入れられるようになってきたという。
このような「遺人形」を作成することに対して拒否感をおぼえる人もいるだろう。場合によっては、悲嘆のプロセスにおいてマイナスに作用する可能性も捨てきれない。しかし、ここで重要なことは、亡き人の人形を手元に置くことを望み、それが心の拠り所になっている遺族が実際にいるという事実である。
最近では、遺灰を収納したペンダントやリング、遺骨の成分で作った合成ダイヤモンドなど、手元供養とよばれる商品も広まってきており、「故人をいつも身近に感じたい」という遺族の要望に応えている。あきらかに問題があると判断されない限りは、それぞれの向き合い方は尊重されるべきであり、その善し悪しを評価するよりも、一人ひとりが抱えている思いに目を向けることが大切である。
「人前で泣くべきではない」のか
重大な喪失に伴う錯綜した感情やうまく言葉にできない思いに、胸が締め付けられ、心が押しつぶされるように感じるかもしれない。こうした体験は喪失の状況や対象などによって個人差は大きいが、誰しも経験しうる悲嘆反応である。自然に湧き起こる感情や心の痛みは当然の反応であり、「いつまでも泣いてはいけない」「落ち込んでいてはいけない」などと、みずからの感情にふたをし、無理に抑え込むのは望ましいことではない。
日本では意識的あるいは無意識的に、人前で感情を表現することを躊躇する人は少なくない。特に年配の男性には、「人前で泣くべきではない」と考える傾向が強い。
妻を亡くして1年半近くが過ぎようとしている70代の男性は、「悲しくないわけではない」けれども、気持ちを表現することが苦手で、人前で泣くことはほとんどなかったという。「その人なりの表現の仕方もあるから、色々あっていいんじゃないかと思っています」と言いつつも、素直に感情を出せる人をうらやましく感じるとも話されていた。