人気のシェアリングエコノミーに起きている変化
僕は、こうした近年のグローバル化する社会が推進してきた「損をするものを切り捨てていく」動きが、世界的に見ると反転しはじめていると考えています。
たとえば、いま「シェアリングエコノミー」に対する規制が、世界各地で登場しています。シェアリングエコノミーとは、「移動したい」「宿泊したい」といった多様なニーズを、ICTで効率的にマッチングするサービスのこと。ウーバーやAirbnb(エアビーアンドビー)などのサービスを知っている人も多いと思います。
ライドシェアのサービスでは、まったく知らない人の車がやってきて、そこになにも言わずに乗り込み、スマホに表示された地図通りに運転してもらい、ひとことも話さずに降りていくことが可能です。
これを怖いと思うか、合理的に運んでくれて便利だと思うか。とりあえず目的地まで運んでくれたけれど、タクシー運転手でもないその人がなぜ運んでくれたのかはよく分からない。こうして、人間関係やコミュニケーションが、商品化された関係へと入れ替わっていきます。
なぜ、こうしたサービスが人気なのか。大きな理由は価格ですが、タクシーの運転手から話を振られるのが「面倒だから」ということもあると思います。他人との面倒な関係を介さずに、合理的に運んでくれるほうが便利とする思想のうえに、シェアリングエコノミーはできあがっています。
相次ぐ規制の背景にある“地域へのなじまなさ”
しかし現在、個人間の面倒な「顔が見える」やりとりに代わり、大規模資本による「顔が見えない」荒稼ぎが横行したことで、モラルや情緒面での問題が発生して転換期に差しかかっています。(※)人間関係やコミュニティの関係性を、経済合理性にもとづいて置き換えていくことに対する反発が世界各地で起きているのです。
※鈴木謙介「シェアリングエコノミーがもたらす不安『NIRA研究報告書2018.3 近代の成熟と新文明の出現 人類文明と人工知能Ⅱ』」
たとえば、バルセロナでは、Airbnb対策を念頭に新築マンション規制がはじまっています。これは、マンションを建てるとオーナーがAirbnb用に購入し、その結果観光客が入ってきて地元住民が住めなくなったり、地価が高騰して地元の人が出て行かざるを得なくなったりしたからです。もちろん、観光客は流動的な存在なので、お金を一時的に落としていくだけで、土地に定着することはありません。
現在は、パリでもAirbnb規制がはじまり、ロンドンやニューヨークではウーバーの規制がはじまっています。後者はタクシー運転手の雇用を守るのがひとつの根拠ですが、ICTサービスによってお金を払える人に有利になる形で、人や資源を入れ替えていくのが経済的に合理的だとする発想は、その場所にもともとあった社会関係や人間関係に馴染まないことが意識されはじめたのも、背景にありそうです。