外国人の琴線に触れたその精神性
近藤さんが作業着ではなく、常にスカートやジャケットといったフォーマルないでたちでいるのは、片付けを「家を出ていくモノたちの門出を祝うお祭り」と捉えているからだそうだ。片付けを「祭り」と表現するのも、どこか日本古来の自然崇拝的なバックボーンが感じられる。
実は近藤さんは、過去に巫女(みこ)として5年間アルバイトをしていた経験をもつ。なるほど「こんまりメソッド」の特異性は、そうした背景を考慮すればストンと腑に落ちる部分が多い。外国人の琴線に触れた近藤さんの精神性は、神道が培ってきた多様性や、落語に見る優しい世界観といった、『なぜ日本の当たり前に世界は熱狂するのか』で描いた日本独自の気質とつながっているのではないだろうか。
近ごろは、近藤さんの「アンチ」も発生しているという。本を「ときめき」で取捨選択して処分することに反発を覚えるインテリ層がいたり、はたまた近藤さんが英語を話さないことに対しての批判まで起きた。いずれにせよ、近藤さんの本を読んだ人、番組を観た人がそれを話題にしたくなる要素を大いにはらんだ世界的コンテンツを確立したという点で、「こんまりブーム」はまだまだ続きそうである。
脳科学者
1962年東京生まれ。脳科学者。ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。東京大学理学部、法学部を卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程を修了、理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職。「クオリア(意識のなかで立ち上がる、数量化できない微妙な質感)」をキーワードとして、脳と心の関係を探求し続けている。『脳と仮想』(2004年、新潮社)で小林秀雄賞を、『今、ここからすべての場所へ』(2009年、筑摩書房)で桑原武夫学芸賞を受賞。