アメリカ人の心をわしづかみに
“こんまり”こと近藤麻理恵さんが世界でブレイクしている。片付けコンサルタントとして活躍する近藤さんは、2010年、『人生がときめく片づけの魔法』を上梓して話題になった。2014年にはアメリカでも同書が出版され、大ベストセラーになるとともに一躍有名人に。時を経て“こんまりブーム”も落ち着いたかと思われたが、2019年、世界最大級の動画配信サービスであるネットフリックスで『KonMari 人生がときめく片づけの魔法』というリアリティーショーが配信されるやいなや、再び大反響を巻き起こした。
いまやアメリカでは「Kondo」という言葉が「片付ける」という意味で使われるほどの社会現象を巻き起こしており、『TIME』誌では近藤さんを「世界で最も影響力がある100人」の1人に選出している。単なる収納術や清掃スキルではなく、「ときめくかどうか」を基準に“断捨離”をするという独自の哲学が、アメリカ人の心をわしづかみにしているのだ。掃除という極めて日常的な作業のなかにも「おもてなし」や「ときめき」といった要素を見いだすことで、その人の働き方や生き方までも変えていく。そうした独自の着眼点に世界が熱狂しているのである。
ネットフリックスのリアリティーショーは、近藤さんがアメリカの一般家庭を訪問し、片付けによって家を大改造する内容で構成されている。極端に片付けができない人の大半がそうであるように、番組に登場する依頼人は、夫の遺品を手放せない女性や出産を控えたカップルなど、心に悩みを抱えていたり、人生の転換期を控えていたりする人たちが少なくない。
近藤さんはそんな彼らに独自の「こんまりメソッド」を伝授しながら、家の片付けだけでなく、彼らの内面にまで変化をもたらす。物の取捨選択を通して自らと向き合うことで、依頼人が前向きな気持ちを取り戻していく過程は、さながら「片付け」という名目の心理セラピーといっても差し支えないだろう。
殺伐とした一軒家に妖精のように現れる
片付けが完了した家のビフォー・アフターを見て、依頼人や視聴者がある種のカタルシスを感じるような同番組の構造は、決して珍しいものではない。むしろ、日本国内でも海外でもありふれたジャンルといえる。しかし実際に番組を観てみると、そこには、特に外国人が引きつけられるような特別な要素があることに気づく。