望むキャリアと生活をトータルでとらえる
働き方改革は、ただ残業を減らせという話ではありません。社員にも会社側にも必要なのは、働く本人がどういう生活を実現したいのかという視点を持つことです。介護や育児に加え、「平日に何日かは子供と夕食を食べたい」「社会人向けビジネススクールに通ってスキルアップしたい」など、自分の望むキャリアと生活をトータルでマネジメントできる、「ライフキャリア・マネジメント」の実現が、今取り組むべき目標です。そのためには、毎日残業を1時間するより、週に少なくとも2日以上は残業ゼロで定時退社し、自分のやりたいことに注力。別の日に残業はまとめてするといったメリハリのある働き方の実現が望ましいと思います。
ライフキャリア・マネジメントを大事にすることで、「仕事だけやっていてはダメ」という意識が社員の間に醸成されていくことは、企業にとってもメリットがあります。想定外の変化に柔軟に対応できる人材、つまり「変化対応力」のある社員が育つからです。
「変化対応力」の高い社員の行動を分析したところ、2つの体験が影響を及ぼしやすいことが明らかになりました。ひとつは、「価値観の違う人と仕事をした経験」です。女性の上司や外国人の同僚がいた、出向先の会社で出向元とは異なる職場文化の中で仕事をしたことがある……。そうした多様な体験によって、自分の価値観や考え方を相対化したり、柔軟に変えられるようになります。もうひとつが、「仕事以外に別の役割を持っている」こと。ビジネススクールの学生、マンション管理組合の理事長など、会社の役職が通用しない世界に身を置くと、おのずと「変化対応力」が高くなります。
仕事もきちんとこなしつつ、家事や育児や介護、または、地域活動などのさまざまな役割を果たしながら生きていける――。そんな社会や職場づくりが、今から5年後、あるいは10年後のビジネスの変化にも慌てない人材を育てることになるのです。
中央大学 ビジネススクール 大学院戦略経営研究科教授
1981年、一橋大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。雇用職業総合研究所(現・労働政策研究・研修機構)研究員、東京大学社会科学研究所教授などを経て、2014年10月より現職。東京大学名誉教授。著書多数。