マイクロスコープ 石井歯科医院●石井 宏

専門医の治療なら完治率9割以上

「アメリカで歯内療法を学んだとき、知識や技術が日本とはメジャーリーグと高校野球ぐらいの差があることを知って、ショックを受けました」

マイクロスコープを通して、口腔内を確認しながら治療を進める。インプラントや歯周病の治療などでも効果を発揮する。

そう語るのは、歯内療法の専門医・石井宏氏だ。歯内療法とは、根管と呼ばれる歯の内部に関する治療。虫歯が進行すると細菌が根管内に感染し、それが歯の根に達した場合、炎症(根尖性歯周炎)を起こす。それを治して再度の感染を防ぐため、根管内を洗浄し、中に詰め物を施していく。しかし根管は入り組んだ形態をしているため、細菌を除去するのは簡単ではない。

そこで治療の大きな助けになるのが、マイクロスコープ(顕微鏡)だ。歯を最大で30倍程度まで拡大できる機能を持ち、肉眼では見えなかったものが確認できるようになった。

「マイクロスコープは20年ほど前にアメリカで、歯学部を卒業した後の専門医教育で使われ始めました。導入前は根管の中が見えないため、細い針状の器具で、『このへんかな』と経験と勘で削るしかありませんでした。それがマイクロスコープがあると歯の中を拡大して治療ができる。感染源を見落とすことが減り、より正確にミスのない処置ができるようになりました」

石井氏は開業医として働いた後、2年間、米ペンシルベニア大学で歯内療法を学んだ。冒頭の驚きを覚えたのは、その頃だ。

「初めて神経を抜く歯の場合、アメリカの専門医なら完治率が9割から9割5分です。それに対して健康保険医療データなどをもとに分析すると、日本における完治率は5割程度と言われています。つまり半分の人は、同じ歯がまた炎症を起こしてしまうのです」

では、マイクロスコープがあれば完治率があがるのかといえば、そうとは限らないという。医師によっては、歯の中がよく見えることでかえって、掃除しにくい部分の周囲をどんどん削ってしまう。結果、薄くなった歯が割れ、抜歯することになった……という話が歯科業界ではまことしやかに流れている。

「一番大事なのは、治療する歯以外のところをシート状のもので被うなどして、歯の中を無菌状態にすること。専門医であれば、どのレベルの処置をすれば、どのくらい細菌が減るかをきちんと理解しています」

マイクロスコープで拡大した、削った歯の画像。奥に見える穴が神経を抜いて洗浄した後の根管だ。

石井氏が治療に当たるのは、1日4人。1人の患者の治療時間はおよそ90分で、ほとんどが2回で治療を完了する。その理由は、「治療は短いほどいい。治療が長期にわたるとそれだけ口腔内が外気にさらされ、細菌が入るリスクが高まる」からだ。奥歯1本の治療に15万円ほどかかるが、客足は遠のかない。

そして石井氏は、毎年8人限定で、自分が学んだアメリカ仕込みの専門教育をほかの歯科医に伝授している。ライバルを増やすことにはならないのか。

「日本とアメリカの差を知ってしまった以上、ほかの歯科医にも伝えるべきだと思いました。競合が増えるというより、私にとって歯内療法はブルー・オーシャン。世間で認識が深まれば、『専門的な治療を受けたい』と望む人も増えるでしょう」