代表的な機器のひとつが、マイクロスコープだ。対象を3倍から30倍程度にまで拡大でき、肉眼では見えない虫歯や、暗くて狭い歯の根の部分が確認可能に。従来の経験と勘で行う治療から、さらに精度が向上した。
「世界で最もマイクロスコープが浸透しているのは日本ではないでしょうか。もっぱら特定の治療に用いる欧米に比べ、日本人の歯科医師は使い方をいろいろと工夫する傾向があり、最近は歯科衛生士が歯石を取るときに活用するクリニックもあります」(同)
また、口の中にペースト状のものを入れる歯の型取りに代わり、光学スキャナ-で口腔内のデータを取って、高画質で再現する方法が生み出された。詰め物や被せ物などの技工物は、そのデータをもとにCAD/CAMシステムによって設計・加工される。
「歯科医院の診療室に設えたデジタルデバイスと、歯科技工のプラットフォームがつながることで、技工物の完成までの手間がかなり省けるようになりつつあります。今後、一般的な歯科技工は自動生産化が進み、ハイエンドな治療を望む患者さん向けに、歯科技工士が匠の技で対応するという二極分化していく流れにあります」(同)
AIで歯科医不要の時代は来るのか?
歯科治療はどのような進展を遂げるのか。赤司氏は「医科との連携強化」「ビッグデータの活用」を予測する。
「これから歯科医院に歩いてこられなくなり、入院あるいは自宅で介護を受けるようになる高齢者の割合が高まります。最後まで自分の口から食べられるという生活の質を保つため、日ごろから口腔ケアなどを施す必要があり、歯科医は食べる力全体を見る『口腔医』としての役割も求められていくでしょう。すでにリハビリテーション科で口腔ケアに力を入れ、歯科衛生士が病棟を回ってケアする病院もあります。
そして、歯科治療は歯科医によって治療計画が比較的ばらばらですが、歯や顎関節などの包括的なデータに基づいて、AIによって治療計画や手法を補助するツールが現れてくるかもしれません。それによって治療の『最適解』が共有されていく可能性もあります」
歯科治療には近い将来、AIやIoTの活用が当たり前になるだろう。しかし、マイケル・オズボーン博士の論文「未来の雇用」では、歯科医はAIに取って代わられる可能性が最も低い仕事に分類されており、赤司氏も「歯科医がAIに取って代わられることは考えにくい」と見る。無人の治療室で、AIが指令してドリルの付いたロボットアームが動き回り、歯科治療が完了する――。そんな世界はSF小説の中だけの話なのかもしれない。