「大きくてつぶせない銀行」の経営問題が深刻化
リストラを続けていくと、最終的には、企業そのものがなくなってしまう。投資銀行部門に経営資源を重点的に配分し、国際業務の強化を推し進めたドイツ銀行の経営戦略は行き詰まっている。
収益以外にも、ドイツ銀行の投資銀行部門には問題が多い。コンプライアンス(法令遵守)体制はかなり不安だ。米司法省は、不正な方法で金融商品を販売したとして、ドイツ銀行に制裁金を科した。これが、業績をさらに悪化させた。同行は、マネーロンダリング(資金洗浄)に関与した疑いもある。これは、ドイツ銀行の社会的責任にかかわる問題だ。
統合相手のコメルツ銀行に関しても、イタリア国債の保有に伴う減損を迫られる可能性がある。コメルツ銀行の収益基盤であるドイツの経済も、想定以上に減速している。
このように考えると、経営不安を抱えた銀行同士の統合は、“大きくてつぶせない”銀行の経営問題を、さらに深刻化させる恐れがある。本来なら、ドイツ銀行は経営体制と財務内容を改善し、その上で他行との経営統合を目指すべきだ。
経営安定化には政府による公的資金の注入が重要
ただ、欧州の銀行監督行政が、その取り組みを難しくしている。銀行が不良債権を処理し、経営の安定を目指すためには、政府による公的資金の注入が重要だ。欧州委員会は公的資金を用いた救済の前に、銀行の株主や債権者による損失負担を求めている。その理由は、納税者への配慮だ。
本当に救済が必要になったとき、銀行の株主や債権者に損失の負担を求めることはできないだろう。株主などが損失を負担しなければならなくなれば、金融市場は大きく混乱しかねない。
ドイツとしては、事態が一段と悪化する前にドイツ銀行の経営を落ち着かせたい。キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と連立を組む社会民主党(SPD)は、ドイツ銀行とコメルツ銀行を一つにまとめ、さらなる経営の合理化を重視している。SPDは、ドイツ銀行に中小企業向け金融を行わせることも狙っている。それはSPDが金融行政で成果を残し、支持を獲得するために重要だ。
今後の展開を考えた際、ドイツ政府の役割は決定的に重要だ。ドイツとEU各国が、実際に運用可能な銀行の救済方法を確立できるか否かは、今後のドイツ銀行の経営を左右するだろう。それができない場合、ドイツ銀行の経営は一段と不安定化する恐れがある。
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。