財務内容が不安定な銀行同士の合併はリスク
3月17日、経営再建中の独最大手ドイツ銀行は、独大手コメルツ銀行との統合交渉を開始すると発表した。2015年後半から、フランクフルトやロンドンの市場参加者の間では両行の合併観測が増えてきた。その意味では、今回の発表に特段の驚きはない。
もともと、ドイツ銀行は“商業銀行”として存在感を発揮してきた。1990年代初頭に冷戦が終結すると、ドイツ銀行を取り巻く環境は大きく変化した。その変化に対応するため、急速に同行は投資銀行業務に経営資源を配分した。それがつまずきの初めとも言われている。
そうしたドイツ銀行の過度とも言える投資銀行部門への偏重は、リーマンショックで多額の損失を引き起こした。その後、同行はリストラによって収益を絞り出してはいるものの、今後、いかにして収益力を高め財務内容を改善できるかは不透明だ。
コメルツ銀行に関しても経営不安の見方は根強い。ドイツ銀行とコメルツ銀行、財務内容が不安定な銀行同士の合併が不良債権の処理や自己資本の増強につながるとは考えづらい。仮に経営統合が完了した後も、ドイツ銀行への不安を完全に消し去ることは難しいだろう。
ドイツ銀行は「欧州最強」の名をほしいままに
かつて、ドイツ銀行は欧州最強の名門銀行だった。設立は1870年。目的は、ドイツ企業の海外進出のサポートだった。第2次世界大戦後も、この役割は重視された。
大戦後、旧西ドイツは急ピッチで資本を蓄積し、工業化を進めることによって復興を果たした。GDP(国内総生産)が増加し資金需要も高まる中、ドイツ銀行は政策的な株式の保有(株式の持ち合い)、融資、監査役の派遣を通して事業会社の経営に大きな影響力を発揮し成長を取り込んだ。
特に、融資からもたらされる利鞘(りざや)の厚さや、ダイムラーなどの政策保有株の価値上昇が、同行の収益力と競争力を大きく押し上げた。この結果、ベルリンの壁が崩壊するまで、ドイツ銀行は「欧州最強の銀行」の名をほしいままにした。
冷戦終結後、ドイツ銀行はグローバル化という環境の劇的変化に直面した。加えて、ドイツ国内では、銀行が事業会社の放漫経営を放置したとの批判が増え始めた。この状況に対応するために、ドイツ銀行は国際業務の強化に取り組んだ。
ドイツ銀行が重視したのは、企業の買収などを手掛ける「投資銀行業務」だった。ドイツ銀行は外部から投資銀行部門を取り込み、その分野での競争力引き上げに注力した。それによって同行は、世界最強の銀行を目指したのである。