20年前に1.2兆円で全米8位の投資銀行を買収

1998年、同行が当時全米第8位の投資銀行だった「バンカース・トラスト」を買収したのは、その考えを象徴する出来事だった。買収金額は101億ドル(当時の邦貨換算額で1.2兆円)程度に達した。

バンカース・トラスト買収を境に、ドイツ銀行は大きく変わった。商業銀行よりも、投資銀行業務からの収益が大きくなったのである。2008年のリーマンショック発生まで、金融市場参加者は、投資銀行部門で収益を獲得し成長を目指すドイツ銀行の経営に大きな懸念を抱いてはいなかった。

歴史的に、商業銀行が投資銀行を買収して成功したためしはない。その理由の一つは、両者の業務の特性が大きく異なることだ。「水と油を一つの器に入れるようなもの」とよく揶揄されるほどである。

商業銀行は、預金を受け入れ、それを貸し出し、利ザヤを得る。これは、商業銀行の収益源の一つだ。一方、投資銀行は、株式や債券の引き受けによる資金調達や企業のM&Aの仲介を行う。わが国の証券会社はその一例だ。リスク特性(性格)が異なる業務を、一元的に管理するのは難しい。

リストラ重視のドイツ銀行と米系投資銀行の決定的違い

リーマンショックが発生するまで、ドイツ銀行の投資銀行部門は“強さの証し”だった。一転して、リーマンショックを境に、ドイツ銀行は投資銀行部門への資源配分過多という問題に直面した。ある意味、ドイツ銀行にとって投資銀行部門は、“あばたもえくぼ”から、“あだ花”へ、一変してしまった。

リーマンショック後、ユーロ圏ではECBが金融緩和策を強化し、市中の金利が低下した。加えて、欧州ソブリン危機が発生し、経済が混乱した。これがドイツ銀行の収益減少につながった。起死回生を狙って注力した株式やデリバティブのトレーディング業務も失敗し、損失が累積した。経済の低迷によって保有してきた債権の価値は劣化し、不良債権問題への懸念も高まった。

収益の減少と低迷を受けて、ドイツ銀行は生き残りのために投資銀行部門での人員削減や資産の売却を進めざるを得なくなった。現状、同行がリストラ以外の方策から収益を確保することは難しいだろう。

リストラが続いてきたため、ドイツ銀行は環境の変化に適応することも難しくなっている。すでに米国では投資銀行をはじめ多くの金融機関が、「フィンテック・ビジネス」(デジタルテクノロジーと金融理論を融合したビジネス)に注力し、IT人材の確保などに動いている。これは、人員削減を進めてきたドイツ銀行と実に対照的だ。