優待制度に目を奪われることは本末転倒
持続的成長の実現こそが、株主への価値還元を行う基礎だ。企業は本業の強さを市場参加者に伝え、その優位性を理解してもらうよう取り組む必要がある。その上で、個人投資家などが株式を保有するささやかな“楽しみ”として、優待制度をどう運営するかが検討されるとよい。投資家の立場から考えると、優待制度に目を奪われ、熟考を欠いたまま株式を購入することは本末転倒だろう。
わが国は、“人生100年時代”に突入している。年金制度の持続性への不安、財政悪化懸念は高まっている。わたしたちは、自分のお金で老後生活を送ることを真剣に考えなければならない。
そのために、株式投資は有効だ。わが国では市中金利が歴史的低水準にある。相応の利得を得るために、株式投資の重要性も高まる。
株式投資のポイントは、よい企業を、できるだけ安く購入することだ。バブル崩壊後のように株価が大きく下げる局面は、タイミングと金額を分散して株式を購入するチャンスといえる。要は、いかに高値づかみを避けるかだ。それができれば、長期の視点で株式を保有し、資産を形成することは可能だろう。
世界最大のクルーズ会社にも優待制度はある
株式投資は、人生を豊かにするためにも役立つ。投資は自己責任である。利益も、損失も、結果は個人の意思決定に依存する。納得して投資するには、企業の経営内容など、さまざまなことを勉強しなければならない。それは、新しい発想などを吸収し、人生を豊かにすることにつながる。その上で、優待制度を通して得られた商品などを使うことを考えればよい。
株主優待制度は海外にもある。世界最大のクルーズ客船運行会社である米カーニバルは、乗船期間に応じたベネフィット(北米航路の場合、14日以上の乗船で250ドルをサービス)を提供している。これは、乗船を楽しんでもらうための制度だ。株主に長期保有を動機づける制度とは異なる。
わが国企業は、成長力を磨き、高め、その戦略の優位性に関する利害関係者の理解獲得に努めればよい。その上で、企業が成長を実現し、株主への価値還元が実施されるのが、本来の在り方だろう。優待制度の“お得感”や“魅力”などを考える前に、持続的成長を追求する企業が増え、その結果として投資家が長期にわたってその企業の株式を保有できる環境の整備が目指されることを期待したい。
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。