「財政ファイナンス」でむしろ財政は健全化する

金融危機が起こって不況に突入すると、民間の貸し出しが減りますから「おカネ」も減り、これがデフレの原因になります。そこで日銀が「おカネ」を増やすことが必要となりますが、日銀はマネーストックをじかに調整することができません。日銀が管理できるおカネは「マネタリーベース」と言って、日本銀行券と「日銀預け金(日銀の口座に民間銀行が預金しているおカネ)」からなるものです(財務省が発行する硬貨も含まれますが、その割合はごく一部です)。

マネタリーベースを増やすとき、日銀は民間銀行から国債を買い上げて「日銀預け金」の金額を書き足します。いわゆる量的緩和政策は、毎年数十兆円規模で日銀が国債を買い上げる政策です。政府が民間に対して30兆円分の国債を発行しても、日銀が30兆円分の国債を買い上げれば、それは日銀がおカネを作って政府の借金をすぐに返したのと同じです。

つまり、政府と日銀(政府の子会社)を連結決算して「統合政府」として捉えれば、このような政策によって日本の財政はむしろ健全化するのです。量的緩和は、円安・株高・雇用改善の効果も実証されています。マネタリーベースを大幅に増やすためには、そもそもの国債が増えないといけませんから、政府が国債を毎年数十兆円規模で発行する必要も出てきます。

このままでは「緊縮策による持続的な不況」が続く

しかし、そのような政策は「財政ファイナンス」と呼ばれ、すぐにハイパーインフレにつながる「禁じ手」だと信じられ、日本ではタブーとされています。

私は、日銀が作ったおカネで、子育て、教育、医療のための支出を行う「反緊縮政策によるデフレからの脱却」を目指すべきだと考えています。物価安定目標を決めて節度をもって財政ファイナンスを行う限り、インフレを悪化させないことは可能だと考えています。

不世出の大蔵大臣であった高橋是清は、世界大恐慌の後、1932年に巨額の財政ファイナンスを行って世界でいち早くデフレ脱却を実現しましたが、その後は健全財政路線に転じて物価を安定させました。現在でも、2013年いらい日銀は300兆円を超える国債買い上げを行っていますが、財政破綻どころかインフレ率が2%の物価安定目標に達する兆しさえ見えません。

しかし、このような反緊縮的な政策が拒否され、早まった「財政再建」が行われれば、そこに待っているのは「緊縮策による持続的な不況」です。名目GDPが低迷して税収も増えず、財政赤字が増えなくても「政府債務と名目GDPの比率」が悪化してゆくと考えられます。