オーナーとしてのこうしたすべての資質を備えるには長い年月をかけて計画的に育成しなければならないにもかかわらず、多くの企業ではそうした考えが一般 的ではない。特定の業務領域に秀でているという能力と、変革を起こす素養とは全く別である。変革を起こす際に必要とされる資質が具体的にどれほど異なるの かに気付かず、担当業務の延長線上にあるチャレンジにすぎないと軽く考える結果、多くの企業がこのギャップに苦しむことになる。
次にこのオーナーに対して解決策を上申する「問題解決提言チーム」を構成するスタッフの人選を行う。このチームは、具体的な複数の解決策をロジカルに、 もれなくだぶりなく練ったうえでオーナーに提示し、決断を迫るという役割を負う。たとえば、先の輸送機器関連部品メーカーの例では、「解決策その1」とし て、「A型とB型の統合費用はいくら必要。それによるコスト削減はいくらで、それによって効率は何%向上する」と算定した。また「解決策その2」として、「A型、B型、C型3種の統合費用はいくら必要。それによるコスト削減はいくらで、効率向上は何%」と算定。そのうえでオーナーに対して、「以上の解決案 のうちどれをとりますか」と問題解決提言チームが決断を迫るのである。
こうした「問題解決提言チーム」のリーダーをどんな視点で選定するかも問題解決の成功のカギを握る。当該チームのリーダーには大きく分けて2種類のスキ ルが求められる。一つは、問題点や原因を把握して解決策を組み立てる際に必要な思考スキル、分析スキル、統合スキル。もう一つはチームをマネージするスキ ルである。
前者を推測するメルクマールとして、例えば、論理性、データ志向性、既存の枠組みにとらわれない発想の広さ、マネジメントの視点。また性格的には、過去 にとらわれず、組織の権力に物怖じしない、などが挙げられる。後者を推測するメルクマールとしては、メンバーの能力や性格を勘案した采配の巧みさ、アウト プットを創出するためにメンバーには厳しく筋を通しつつも、人間的な魅力に基づくナチュラル・リーダーシップの強さ等である。
問題解決提言チームのリーダーは現場業務から離れ、勤務時間のすべてをこの問題に費やす立場にあることが望ましい。このためラインから引き抜いて期間限 定の専属スタッフとして任命すべきである。その最大の理由は、組織のしがらみから独立させることにある。業務を兼任していれば、その業務を当面回さなくて はいけない、という当たり前の「しがらみ」にとらわれ、大胆な発想には結びつきにくい。その立場に独立性を与えることで提案の客観性は飛躍的に高まる。