群雄割拠して競い合う中国地方都市の猛烈ぶり
中国は中国で、今や“中華連邦”の趣だ。中国共産党の中央政治局に属する委員や地方の党委員会の書記というポジションの人材が、省のトップや市長の上部機関として絶大な権限を持ち、群雄割拠して都市の発展を競い合っている。中国の地方都市に行くと、現地の人々の口から胡錦濤主席の名前はほとんど出てこない。聞こえてくるのは省長や市長、あるいはそのお目付け役としての書記の名前で、「あの人がいるから、大丈夫」という言い方をする。
たとえばこの11月に来日して岡田克也外相らと会談した汪洋氏(54歳)は、広東省の党委員会書記で広東省のトップである。中央政治局で一番若い第五世代を代表する常務委員であり、胡錦濤派の次期首相候補として頭角を現してきた汪氏の登場によって、広東省の将来はきわめて明るいと注目を集めている。
汪氏の前職は、中国中央政府の直轄市である重慶の党委員会書記。現職の重慶市委員会書記の薄熙来氏(60歳)は第4・5世代ではあるが、依然として次期首相候補の一人といわれている。
薄氏は大連市長や遼寧省長を務めた後、国務院で商務部長(長官)を経て07年に現職就任。この人事は左遷ともいわれたものの、薄氏は重慶市で大規模な汚職事件の摘発に乗り出し、今年1年で実に3000人以上を逮捕した。
もともと工業都市として発達した揚子江上流の重慶市は大気汚染がひどく、どこか澱んで暗い雰囲気の街だったが、薄氏が書記になって以来、大規模な再開発が進んで街は一変しつつある。豊富な労働力をあてにしてフォードなどの外資系企業も続々と進出を決めるなど、経済成長率はこの2年連続で14%に達している。
重慶の人口は3000万人だから、一国の人口規模に値する。中国には人口100万人以上の都市が100以上ある。それらの都市に汪氏や薄氏のような“事業部長”トップがいて、お互いが経済成長という業績結果を出そうと覇を競っているのだ。
当然、市長選挙などはない。市長の人事権を握っているのは党中央。今の中国は中国共産党というホールディングカンパニーの下に数百の事業本部があるとイメージすればわかりやすい。市長がクビになる理由は3つ。1つは汚職腐敗。2つ目は市民の暴動を許した場合。そして3つ目が経済成長率7%以下を2年続けた場合だ。