マーケティング近視眼を避けて成功した最近の事例としては、任天堂が挙げられる。


2009年7月、Wii向けソフト「モンスターハンター3」の初回出荷が100万本に達した。これを追い風にゲーム機の販売増を狙う。

任天堂は携帯型ゲーム機「ニンテンドーDS」や据え置き型ゲーム機「Wii」の大ヒットによって、売上高は1兆8386億円、3年前に比べ3倍以上になるという驚異的な急成長を実現した。

2009年3月期に「ニンテンドーDS」シリーズの累計販売台数は全世界で1億台を超えた。ゲーム機として1億台を超えるのに要した期間は史上最短という。

また「Wii」も累計で5000万台を超え、最速で累計販売台数が5000万台に到達したゲーム機となった。ゲームソフトの販売も好調である。

これは競合であるソニーのゲーム機事業が07年3月期から3期連続で営業赤字に陥り、業績の足かせとなっている姿とは対照的である。

性能だけを見れば、WiiよりソニーのPLAY STATION3のほうが上回る。ただし、Wiiには「Wiiリモコン」と呼ばれるコントローラーで位置や動きを検知し、実際の剣やラケットのように直感的な操作を楽しめる特徴がある。

ソニーがゲーム機の性能を向上させ、いわば家庭用スーパーコンピュータを目指したのに対し、任天堂は直感的なユーザーインターフェースによって幅広い客層にゲームの楽しさを提供しようと考えたわけである。

任天堂がそうした方針を採った背景には、「ゲーム人口の拡大」という同社の基本戦略がある。従来のゲームの定義を拡大し、ゲーム初心者から熟練者まで楽しめる多彩なラインアップを揃え製品の普及に努めるというのがその骨子だ。

これに基づき製品の位置づけも、ニンテンドーDSを「所有者の生活を豊かにするマシン」、Wiiを「家庭のリビングルームにおけるコミュニケーションを促進する『取り巻く人々を笑顔にするマシン』」としている。そこからは任天堂が製品中心ではなく、顧客中心にゲーム事業を捉えていることが読み取れる。「脳を鍛える大人のDSトレーニング」や「Wii Fit」のような従来のゲームソフトのイメージとは一線を画すヒット商品が飛び出した理由もそこに求められるだろう。

※すべて雑誌掲載当時

(構成=宮内 健)