【新井】そうです。もし人間がAIらしくなれば、AIには必ず負けます。AIにできることは基本的には四則演算で、AIには意味を理解できないという弱点があります。オックスフォード大学の研究チームが発表した10~20年後に残る仕事、なくなる仕事のリストを見ると、仕事がマニュアル化されやすいものがAIによって代替されやすく、コミュニケーション能力や理解力を求められる仕事が残りそうです。つまり、読解力こそがAIに代替されない能力なのです。
その読解力をどうやって身につけていくかといったら、言語という人工物が発明される前の、ホモ・サピエンスになる前の段階に戻って、感受性豊かな敏感期に、さまざまな経験をさせる。暑い日にお母さんと一緒に歩いてくたびれて、でも歩きたくて、それで10歩歩くと、しゃがんで虫を見つけたり、石とかを拾う。あの石じゃなくて、この石が好きだとか、あそこに光っているのはタマムシだ、とか。それに付き合うのは親として本当に大変なのですが、そうした人を見ると、私は必ず褒めます。そして、絶対にスマートフォンを渡さない。
重要なのは、人間として育てる前に類人猿としてきちんと育てることです。それは人間が個体発生ではなく系統発生だから。子どもにAI人材になろうとか、プログラミングをやろうとか言う前に、まず類人猿にすることです。それから人間になっていくことが大事だと考えています。
国立情報学研究所教授
同社会共有知研究センター長。一般社団法人「教育のための科学研究所」代表理事・所長。一橋大学法学部およびイリノイ大学数学科卒業、イリノイ大学大学院数学研究科単位取得退学。東京工業大学より博士を取得。専門は数理論理学。著書に『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』がある。
佐藤 優(さとう・まさる)
作家・元外務省主任分析官
1960年生まれ。85年同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。在ロシア日本大使館勤務などを経て、作家に。『国家の罠』でデビュー、『自壊する帝国』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。『国家論』『私のマルクス』『世界史の極意』『神学の思考』など著書多数。