誤解【3】
「北朝鮮には強硬姿勢」

18年6月、トランプと金正恩朝鮮労働党委員長がシンガポールで歴史的な首脳会談を行った。米朝首脳会談直前までトランプと金正恩の間で主導権争いが続けられた結果、一時はトランプが会談キャンセルの書簡を北朝鮮側に送り付ける事態ともなったが、実際には会談が開かれ、その結果として、前年からトランプ・金正恩の間で行われた罵倒合戦、その後の米朝の軍事的緊張は小康状態となっている。

時事通信フォト=写真

北朝鮮強硬派として知られるジョン・ボルトン国家安全保障担当補佐官が任命され、日本国内では北朝鮮との首脳会談が流れるのではないかとする向きもあった。しかし、当時の米国側の状況から、トランプからキャンセルする可能性は低かったことがわかる。

なぜなら、18年5月、共和党下院議員ら18人がノーベル委員会に朝鮮戦争終結および朝鮮半島非核化を目指しているトランプにノーベル平和賞を与えるように推薦していたからだ。

この共和党下院議員ら18人を取りまとめた議員は、ルーク・メッサー共和党政策委員会委員長で、もともとはマイク・ペンス副大統領の地盤の選挙区を継いだ人物。トランプ政権および共和党の意向として北朝鮮と手打ちを行う方針であることは明白であった。

「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」はまず無理

米朝首脳会談から3カ月たった現在(※本稿掲載は昨年9月)、米国と北朝鮮の間の非核化交渉はノラリクラリとした歩みを続けているが、そもそも非核化は物理的に時間がかかるもので、すぐに状況が進展すると思うのはおかしい。トランプ側としては中間選挙までに何らかの具体的な進捗が欲しいところだが、すでに最低限の非核化に向けた協議を開始している時点で及第点と言える。

米国から見た場合、東アジア情勢は中東情勢とコインの裏表の関係にある。米国の戦力は世界の複数正面で事を構えるには限界があり、中東情勢で緊張が高まれば東アジア情勢ではクールダウンする。トランプ政権が18年5月8日にイラン核合意からの離脱を発表した直後に、中国・北朝鮮が緊急の首脳会談を実施して「段階的な非核化」で合意し、その後に北朝鮮が態度を硬化させたことなどは、両地域の関係性を象徴する出来事だった。中国や北朝鮮も米国の安全保障に関する能力の足元を見ながら対米交渉を進めている。

トランプ政権は18年8月から新チームを立ち上げイランに対する包括的な対応を行う体制を強化している。中東地域ではイランが支援していると目される複数の敵対的な勢力が存在しており、米国と友好関係にある国や勢力が戦火を交えている状況にある。最近では米軍によるシリアへの再爆撃が噂される状況となっており、北朝鮮が非核化協議をサボタージュしたとしてもすぐに軍事的圧力を同国に加えられるような状況ではない。

さらに、そもそも北朝鮮の完全かつ検証可能で不可逆的な非核化を実現することは現実的に極めて困難だろう。1度確立した核開発技術を何らかの手段で情報保全することは容易だ。米朝首脳会談の合意内容が曖昧だったことを批判する声もあるが、急場しのぎの緊張回避が目的の会談に必要以上の内容を求めることは間違いだ。

したがって、北朝鮮の動きに一喜一憂することはナンセンスであり、トランプ政権もこの問題が早期に解決することなどハナから想定していないものと推測される。