脳科学的に言うと感情を司る大脳辺縁系が未熟なら、論理を司る前頭前野で理屈に置き換えてしのぐということ。人間関係のストレスに過敏で脆弱な現代人には必要なテクニックです。
百点満点のコミュニケーションではないのですが、この方法が必要になってきているからこそ、この本が売れたと私は解釈しています。伝えるのが苦手で、しかし、それと真剣に向き合ってきた佐々木さんだからこそ導き出せた方法論。これは「認知行動療法」を「伝え方」に置き直したものだと確信しています。
佐々木さんの仕事はコピーライターですから、お金を払って買ってもらうという相手の行動に結び付けないといけない。心つまり大脳辺縁系に訴える伝え方が必要な世界です。その正反対にあるのが『大人の語彙力ノート』。著者の齋藤先生は意識していないと思うのですが、これは「感情を伝えない」本です。ピンチを乗り切るときの言葉による危機管理として活用してもらいたい。語彙力があれば、相手の大脳辺縁系を下手に刺激せずに、丸く収められるのです。
例えば「お金がありません」と言われると(こいつ貧乏なのか?)とか(ウソ言え、儲けているくせに)という感情が生じるでしょう? でも、「手元不如意なもので」と言われると、その意味を考えてしまいます。考えている間は、大脳辺縁系が働かないので感情が生じにくい。「わかりません」と言われれば、(おまえ、バカか?)となるけれど、「浅学菲才の身でして」と言われたら考えなきゃならない。意味を考える前頭前野を刺激することで、大脳辺縁系を働きにくくさせ、その場を流していく。これは失敗したとき、謝るとき、断るときに加えて、プライドの高い上司をコントロールするのにも使えるテクニックです。
『勉強法』は第一講の「〈情報〉とは何か」に書かれているインテリジェンスとインフォメーションの違いを読むだけでも、買う値打ちがあります。単なる情報であるインフォメーションを、知恵として役立つインテリジェンスにどう置き換えるか。
「インテリジェンスは物語性を持っている。情報を読み解くためには歴史を学べ」と佐藤さんは強調されています。実は、22年前、私が医学生の頃、まだ無名だった佐藤さんから講義を受けたことがあります。当時も同じことをおっしゃっていましたから、彼の鉄板ネタなのです。