知らない読者が読んでも、本田さんに会いたくなる
最後に、私事を書かせていただきたい。私の友人に中川六平という名物編集者がいた。彼が亡くなってから早5年がたつが、当時は「晶文社」に籍を置いていて、私のオフィスに遊びに来ては、呑み歩いた。その彼から「本田さんを書け」といわれたことがあった。
まあそのうちと、ずぼらな私だから、何も手を付けなかったが、そのうち六平がしびれを切らしたのだろう、便せん3、4枚にコンテを書いて、この通り書けと置いていった。書けば「晶文社」から出すというのである。
それは、おおまかにいうと、本田さんの作品評論を縦軸に、私と本田さんとのかかわりを横軸にしたものだった。
六平(2013年9月5日・享年63)が亡くなり、催促する人間がいなくなったため、そのままになってしまった。
後藤氏から本田さんのことを聞きたいと連絡があり、会って話しているうちに、失礼を承知でいえば、本田さんのことを書くのに最良の人を得たと思った。
本にまとまり、一読して、その思いをいっそう強くしたのである。
この本は、本田靖春を知らない読者が読んでも、彼の作品を読みたくなり、会いたくなると思う。
私も読みながら、本田さんの顔を、声を何度も思い出していた。読後、久しぶりに本田さんとじっくり話し合えたような、そんな気がした。
ジャーナリスト
1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任する。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)『編集者の教室』(徳間書店)『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)などがある。