米スタンフォード大学などの科学者と研究を開始
そこでさまざまな方面からアプローチをかけ、07年から国立スポーツ科学センターの一部のベッドでエアウィーヴを試用してもらうことになりました。競泳の北島さんも同センターの宿泊施設でエアウィーヴを体験した1人です。08年北京五輪でも使いたいという申し出があり、急きょ「エアウィーヴポータブル」を開発しました。最終的に日本陸上競技連盟などからもオファーがあり、合計70枚のエアウィーヴが北京五輪の水泳・陸上選手団の睡眠を支えることになりました。
ただ、それだけで一般の方に買っていただけるかというと、そんなに甘いものではありません。実際、金メダルの北島さんをはじめ選手団が帰国した際にはエアウィーヴがテレビで大映しになりましたが、販売はさっぱり伸びませんでした(笑)。
「次に必要なのはエアウィーヴの良さを裏付けるエビデンス(科学的根拠)だ」。そう考えていた折に、睡眠医学・スポーツ精神医学を専門とする内田直先生(当時、早稲田大学スポーツ科学学術院教授)とお会いする機会がありました。北京五輪終了1カ月後のことです。
ちょうどアスリートの睡眠研究に着手されていた内田先生と我々の思いが合致し、09年から共同研究が始まりました。
このときの研究では、高反発素材のエアウィーヴは寝返りを打つ際に体(筋肉)に負担をかけず、効率の良い睡眠をもたらす可能性が示されました。余計な力の刺激が少ないので、中途覚醒せず、深く眠れるわけです。
さらに10年の冬、知人から睡眠領域の世界的権威である米スタンフォード大学医学部の西野精治教授を紹介されました。
このときは睡眠の質を左右する「深部体温」にフォーカスしています。本試験では健康な成人男性10名を太田睡眠科学センター(神奈川県川崎市)の個室に1週間以上拘束し、睡眠に関するデータと生理学的なデータを測定しました。
一口に研究といいますが、被験者に支払う協力費、個室代と検査機器の使用料など、1日1人当たりの経費は軽く10万円を超えます。研究費の総額は約3000万円に達しました。10年の売上高が約3億円。その1割を研究費に充てたのですから常軌を逸しています(笑)。しかしこのときの結果は、前述のように「PLOS ONE」に掲載されましたから、投資しただけの価値はあったと思います。