技術的に非常に難しいクローン人間とは違い、受精卵のゲノム改変は知識と技術、ラボさえあれば、簡単にできる。ゲノム編集は2012年に最新の技術が登場して以来、動物や植物の品種改良に応用する研究が急速に進んでいる。
毎日社説も「今回使ったというゲノム編集技術は高度な専門知識がなくても扱えると言われる。それだけに、不妊治療の一環として民間クリニックなどで安易に使われる可能性がある」と指摘している。
中国でも生殖補助医療への遺伝子改変は禁止されている
毎日社説は「関係する大学や病院は、中国政府とも協力し、まずは事実関係を明らかにすべきだ。今後、こうしたことが起きないよう、それぞれの国が防止策を徹底すると同時に、国際的なルール作りも検討する必要がある」と訴える。
この国際的なルール作りには大賛成である。
フランスやドイツなど欧州では生殖補助医療で遺伝子を改変する行為を法律で禁じている。アメリカも立法化していないものの、人の遺伝子改変に伴う研究の審査に政府の予算を使わないなど実質上、禁止している。中国も生殖補助医療に遺伝子改変の技術を応用することを禁止する指針(ガイドライン)を国家として設けている。この指針に違反すると、罰金を科すなどの処分を下すというからそれなりに実効性がある。
日本はこれまで学会レベルの指針で規制し、来年からは基礎研究を対象に国の指針による規制を実施する。専門家の間では法整備を求める声も出ている。
ただ医療のグローバル化が進むなかで、ルールや規制が国ごとに違うようでは困る。WHO(世界保健機関)が各国の法律のベースとなる国際ルールを作るべきである。
この研究者は自らの業績を世界で評価してほしいだけ
毎日社説は続けて指摘する。
「ヒトの生殖細胞の遺伝子を改変して子どもをもうけることは、安全性が確立していないだけでなく、加えた操作が世代を超えて伝わる」
「両親が望む容姿や能力を持つ『デザイナーベビー』の作製につながる可能性もある。現時点で認める段階にないというのが国際的な合意だ。遺伝子操作した子どもを出産させることは、独仏英などが法律で禁じ、中国も国の指針で禁じている」
やはり研究者が第一に考えなくてはならないのは安全性だ。生まれた赤ちゃんに予想外の障害が残ったり、HIV以外のウイルスに感染しやすくなったりする危険もある。そのとき、だれが責任をとるのか。そもそもHIV感染は受精卵のゲノム操作をしなくとも十分に予防できる。
要するに賀氏は、生まれてくる赤ちゃんの福祉を考えていないのだ。自らの業績を世界で評価してもらいたいだけなのだろう。これでは科学者失格である。賀氏のようなタイプの研究は、どこの国にもいる。
毎日社説も沙鴎一歩がその危険性を指摘したようにデザイナーベビーにつながることを懸念している。デザイナーベビーはすでに技術的に可能で、現実的な話なのだ。