認可保育園偏重の投資が「待機児童数ゼロ」を妨げる

さて、このように冷静に考えてみると、そもそも子育てにおいて、未就学児を持つ親や行政が、認可保育所の規模拡大ばかりにこだわるのは、いいことばかりではないということが見えてくる気がします。

かつて、全国最大級の待機児童数をはじき出した横浜市と川崎市では、それぞれ待機児童ゼロを公約に掲げた候補者が選挙で市長に当選した過去があり、とにかく認可保育所の整備・人材確保に努めた結果、どちらも一度は公約を達成しました。

ただ、横浜市や川崎市は東京都心への交通利便性が高い割に不動産価格水準が都内ほどではなく、その意味でもともと住みやすいまちであるという条件が整っていました。そこへ、さらに子育てがしやすいという宣伝効果が加わってしまったため、待機児童ゼロ達成が宣言されるのに前後して子育て世代がいっそう流入し、ゴールはまた遠のいてしまうという、いたちごっこの繰り返しになっています。

冷静に考えると、本来、待機児童を減らすためには、認可保育所だけでなく認可外保育施設(特に準認可保育園)の活用も重要な手段の1つです。そうすることで、認可保育所より近い施設を自分で選んで通わせられる世帯が増える利点もあります。しかし、世の中に根強い認可保育所偏重、認可外保育施設軽視の風潮の中で、これまでの取組(予算)はとにかく福祉の充実という観点から認可保育所整備に集中投入されてきました。その結果、本来、市区町村としてそれ以外に投資すべき分野にお金が回らないという、いびつなまちになっていく可能性があるのです。

子育てしやすいまちといったとき、私たちはつい待機児童数が何人かということばかりに目が行きがちですが、住民の選択肢を広げるという意味でも、準認可保育園の状況なども含めてじっくり考えてみることが必要だと思います。

大原 瞠(おおはら・みはる)
行政評論家
1974年生まれ。兵庫県出身。大学卒業後、学習塾講師や資格試験スクール講師を経て、行政評論家として活動。
(写真=iStock.com)
関連記事
7500万円タワマン買う共働き夫婦の末路
6000万タワマン族"ほぼ赤字家計"の末路
「役員級と課長止まり」言動と服装の違い
60代の後悔"不要品は捨てればよかった"
タワマン上層階の子「成績は低迷」の理由