「手軽さ」と「食べたくなる味」

筆者は、その理由はバランス性で、特に「手軽さ」と「また食べたくなる味」だと思う。

特徴である波型に生地を焼くための「千寿せんべい1号機」(画像提供=鼓月)

「手軽さ」には、いくつかの意味がある。まずは冒頭で紹介した価格。百貨店内の店でも、たとえば8枚入り1080円と、進物用としては競合より安い。日持ちは「77日」もあり、すぐに食べなくても常温保管することができる。

また、京都市内の路面店でも、老舗店のような「のれん」がなくて入りやすい。筆者が「四条烏丸店」に立ち寄った際には、近隣の会社員らしき女性が、財布だけ持って駆け込んできた。実は、お客の希望があれば、店の近隣に配達しているという。

「食べたくなる味」は、個人差があるが、あっさりしたシュガークリームをはさんであり、固くもなければ柔らかくもない。日本茶だけでなく、コーヒーや紅茶にも合う。濃厚な洋菓子は確かにおいしいが、週に何回も食べたくなるか。この「絶妙さ」が、世代を問わず長年好まれる理由だろう。

なお、健康志向の影響で、最近はカロリーを気にする消費者も多い。「千寿」は1枚あたり139キロカロリー、「姫千寿」は54キロカロリーとなっている。

著名人にたとえると「大竹しのぶ」

こう紹介してきたが、取材前から千寿せんべいの「人気の本質」を、読者の腹に落ちる説明として何がよいかを思案してきた。そこで取材の際、中西氏に「千寿せんべいを著名人に例えると誰か?」を聞いてみた。しばらく思案した末の答えはこうだった。

「女優の大竹しのぶさんだと思います。その理由は、庶民性がありながらも、少し高貴な役柄など、幅広い役を演じて長年活躍されているからです。日常使いでもご利用いただき、進物としても使っていただけるお菓子として、千寿せんべいもそうなっていきたい」

“高根の花”にならず、ほどよい庶民派を貫くのが、商品の立ち位置のようだ。