概念ばかりではわかりにくいので、仮説思考による問題解決の典型的な成功事例で説明しましょう。
「星野リゾート」は軽井沢の老舗旅館の3代目で社長の星野佳路氏のリーダーシップのもと、温泉旅館の経営や運営受託を行う「旅館再生マネジメント」のプロフェッショナル集団です。
2005年、星野リゾートは伊東温泉「湯の宿 いづみ荘」の再生事業に乗り出します。「いづみ荘」は1912年創業の老舗ながら、40億円の負債を抱えて経営難に陥っていました。
まず星野社長は社員を集めて再生のためのコンセプトづくりから始めました。しかしいままで懸命に集客努力をしてきた約60名の社員は、これ以上何をしたらいいのかわからないのが本音。再生にも疑心暗鬼だったようです。そこで星野社長は独自の顧客調査を行いました。すると客数は減っているものの、根強くリピートしてくれている顧客の存在に気づきます。リピーターは「60代以上の夫婦」「50代以上の女性グループ」「孫を連れた3世代家族」に大別できました。
この調査結果をベースに顧客との接点を持つ前線のスタッフを集め、「どの客層を狙えば旅館の強みが生かせるか」「顧客データから思いつく、現場の出来事は何か」などを話し合った結果、3つの層に共通するのは熟年女性であり、熟年女性が旅行などイベントの決定権を握っているという問題解決の糸口を見出します。
そして、この層を圧倒的に満足させる「熟年女性のマルチオケージョン(いつ誰と来ても満足できる)温泉旅館」というコンセプトを決定。コンセプトに合わせて料理や接客サービスなどを変え、旅館のオペレーションを改革。結果、次の年には客室稼働率が前年比1割アップ、再生の道筋がつきました。