職人技が評価されて「高くても売れる」に
そもそもなぜ、土屋鞄のランドセルがここまで人気になったのだろうか。結論をいえば、地道なモノづくりの姿勢が評価された結果といえる。
同社は創業以来、「日本の職人の手作りによる革製のカバン」が信条だ。創業者・土屋國男氏の思いが反映されており、近年は通勤カバンや、財布や定期入れなどの革小物も手がけ、こちらの評価も高い。創業50年目の2015年からは「OTONA RANDSEL」(大人ランドセル)という商品も出している。10万円(税込み)という高価格だが大人気となり、発売直後に完売することも多い。こちらは大人が通勤に使うリュック型のカバンだ。
土屋鞄の商品は、高価格だが、品質も高い。子ども用ランドセルの場合、背中のクッション材には、弾力性の違う2つのウレタンを採用。肩ベルトなど負担のかかる箇所は、太い糸を用いて手縫いで強化している。完成まで300以上の工程をかけるという。
「A4フラットファイル」が入るようにデザインを改善
少し引いた視点で考えてみよう。土屋鞄のランドセルは、上質な素材やデザイン性、色味の豊富さなど、その高い「ファッション性」が支持されている。
一方、使い勝手はどうだろう。満足する声が多いが、実は競合に比べて、土屋鞄のランドセルは横幅が約1センチ小さかった。そのため小学生がよく使う「市販のA4フラットファイルが入りにくい」と言われていた。それが2019年版からデザインを変更。これが入るように改善した。
小学生も高学年になると荷物が増え、ランドセルに入り切らない荷物は手提げ袋などで対応する。とはいえ、できるだけ背中に背負えたほうが楽だろう。一方、保護者側は、型崩れすることなく、きれいな箱型で6年間使ってほしい。
現在の小学生の消費者視点はあなどれない。特に成長が早い児童は、高学年になると、ランドセルを背負う行為への意識が変わる。こうした時でも使えるカッコよさが大切だ。伝統のあるデザインを変更してでも、消費者ニーズに寄り添う。土屋鞄の強さは、こうした柔軟性にもありそうだ。