小学校に入学したばかりの1年生が学校生活に適応できない。春になるとそうした「小1プロブレム」が問題視される。だが東京大学名誉教授の汐見稔幸氏は「教室のイスに座っていられない子どもたちの問題ではなく、そういった旧来の学びスタイルに問題があるのではないか」と問い直す――。

※本稿は『本当は怖い小学一年生』(ポプラ新書)の一部を再編集したものです。

先生たちを悩ます「小1プロブレム」

4月、真新しいランドセルを小さな背中に背負い、頬を紅潮させ、親に連れられて小学校の門をくぐる。「これからどんな楽しいことが待っているのかな」というワクワクした気持ち、緊張し、ぎこちない仕草で友達の待つ教室に入る。小学1年生はいつの時代もピカピカに輝いて、大人たちはみなすがすがしい気分になる。

汐見稔幸・白梅学園大学前学長

ところが、小学校関係者にとってはあまりうれしい季節ではない。

いざ授業が始まると、イスに座っていることができず、教室内を歩き回る子がいたり、配ったプリントを紙飛行機にして飛ばしたり、先生の話を無視して近くの友達にしゃべりかけたりする。中には教室から廊下、校庭に飛び出して(脱走して)しまう子どももいる。そんなクラスがあちこちで見られる季節でもあるからだ。

この先生たちを悩ます問題は「小1プロブレム」と呼ばれ、一般には否定的に語られてきた。そして「今の子どもたちはしつけられていない」などのレッテルが貼られてきた。この言葉が知られるようになって10年以上がたつのに状況は改善されていない。

どうして改善されないのか。それは、小1プロブレムのとらえ方に問題があるからではないか。小1プロブレムを、むしろ小学生による学校への「反抗」、既成の教育への未熟な「異議申し立て」としてとらえ、その背景や原因を探ってみよう。

生徒や学生が「反抗」するのは先例がある。1960年代の学生運動、70年代はじめの高校生の紛争、70年代末から80年代初頭にかけての中学生の「校内暴力」。そして、80年代中頃からは小学校高学年の子たちの「荒れ」が取り沙汰されるようになった。その流れにならっていえば、今は小学校の低学年の子どもたちが「反抗」していると見ることも可能だ。1995年以降の話だ。

新聞などのメディアはこれを「学級崩壊」として取り上げたが、その後問題が低年齢化し、とりわけ小学校入学直後の1年生の状況を指して、学校関係者が名づけたのが「小1プロブレム」である。そういう歴史的な流れに置いてみると、この問題が違ってみえてくる。