一念発起して仕事を探すことにしたが、当時はリーマンショックの後で人材会社に登録してもどこからも声がかからなかった。ところがあるとき、高校時代の友人から介護施設会社の経営者を探していると聞き、自ら手を挙げ、雇ってもらえた。未経験の分野ではあったが社長の経験もあるし、人事部時代にやった建築物の管理や社食の運営の経験も生きた。入居者への対応や数百人の職員の管理など大変だったが、得意の人事制度改革や新規サービスの開拓など懸命に打ち込んだ。

今の生活費は月50万円ですませ、残りの収入は貯金

「介護業界は古い体質もあり、最初はカルチャーショックもありましたが、いずれ自分もお世話になるかもしれないし、何とかしてあげたいという気持ちが強かった。知らないことは自分から積極的に吸収し、さまざまな改革を行ったので、やりがいはありました」

ここで3年間経営者を務めた。当時の年収は800万円。ただ、それ以上に今までの会社人生と違い、個人として仕事をすることに対する手応えと自信も生まれた。その後は人事コンサルタントとして企業の人事制度構築の依頼も徐々に増えていった。

今では業種の違う複数の会社のアドバイザーや監査役を務め、ほぼ毎日働いている。

「振り返れば9カ月家にいて仕事をしようと決意したことが大きかった。充足感が全然違います。人生とはそういうものかなと思いますね」

今の生活費は月50万円ですませ、残りの収入は病気など不慮の事態に備えて蓄財している。田中さんは「公的年金と企業年金で生活できる人は少ない。早くから定年後の生活設計を描いて自分で研究・実践することが大事」と現役世代へアドバイスする。

(撮影=研壁秀俊)
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