しかし、学生運動へ関与した事実を不採用の理由として認容し、企業の「採用の自由」を幅広く認めた最高裁の判断が判例となっている以上、「現に喫煙習慣がある者を不採用と決定したとしても、違法とまではいえない」というのが、労働上の法律問題に詳しい岩出誠弁護士(東京弁護士会)の立場である。加えて、「喫煙習慣は、業務に支障を来すおそれがあるため、純然たる嗜好の問題ともいえない」(同)。
では、冒頭の問いに戻ろう。自らが喫煙者である事実を隠すことによって「喫煙者非採用企業」に採用され、その後に喫煙している事実が露見した場合はどうなるのか。岩出氏によると「懲戒問題にはなりうる。ただ、企業内での禁煙を厳守していたり、企業関係者と居合わせた席で喫煙しないなどの行動が徹底されている従業員であれば、解雇まで踏み込むのはゆきすぎではないか」という。つまり、解雇されても、訴訟すれば、社員としての地位を回復できる可能性が十分にあるということだ。
テレビ画面にタバコのCMが映らなくなって久しい。全面禁煙とする公共交通機関や飲食店も増えた。他方で、紫煙をくゆらせているうちに、仕事のストレスが解消され、生産性が上がるという人も少なくない。タバコをめぐる世の動きは、まだまだ過渡期から抜け切れていない模様だ。