野菜なら、先にどんどん食べていい
セルフサービスを発展させて、野菜をたっぷりとれるコーナーを実験中だ。「先に野菜を食べれば太りにくい」とよく言われる。しかしエビデンスもなく効果をPRできないから、静岡県立大学に依頼して実証実験をやってもらった。効果ありという独自の研究成果が出た。「先に野菜を食べる」という意味で、このコーナーを「野菜ファースト」と名付けた。
野菜ファーストを始めたきっかけは、とんかつをオーダーする前に、セルフコーナーに行って、ごはんをよそい、キャベツを食べ始めるお客さまが増えたことだった。とんかつは要らないんじゃないか、と思うほど勢いよく食べる。ただ、先にセルフコーナーのものを食べることを遠慮しているお客さまも見受けられた。「先に食べたほうがいい」という理屈があれば、控えめな方にも堂々と食べてもらえると思った。
セルフコーナーを充実させたり、野菜ファーストをはじめたりで、女性客がかなり増えた。うちはとんかつ屋で全国一女性のお客さま比率が高いのではないだろうか。確かめる術はないのだが。
大量出店は、今はできない
飲食業というのは、1軒優秀なモデルができたら、それと同じ店を出していけばいい。良い立地に出せれば、さらに成功の確率は高まる。つまり、「1軒目」を当てること、拡大するときの資金がポイントになる。私は新卒で、すかいらーくに入社した。全国に5軒しかなかったときだった。いろいろな経験、勉強をさせてもらい、多店舗展開の理論を少しはわかっているつもりだ。
野菜ファーストがうまくいけば、ほかの店舗に展開し、さらに一気に拡大するチャンスも出てくるだろう。しかし、それはかなわない。新たな借り入れができないからだ。今から10年前、2期連続で赤字決算になった。不採算の店舗が増え、返済能力が落ちた。いわゆる「バンクミーティング」が開かれ、メインバンクが他行も集めたところに、私も呼ばれた。
ある銀行の支店長は「社長個人はどう責任を取られるつもりですか?」と私に聞いた。「個人資産は出されますか?」「給料はこのままですか?」と畳み掛けた。そこまで答えなければ、許してもらえなかった。融資の返済を銀行に猶予してもらう代わりに、新規の借り入れは一切できなくなった。しかし、私にはそれよりもつらいことが待っていた。