米企業は1兆円企業の投資を表明しているが……

一方、アジアのカジノブームでボロ儲けしたのが、米国・ラスベガスから乗り込んだカジノ運営企業だった。マカオでカジノ免許が外資系企業に開放されたのは2002年のことだ。当時、2800億円にすぎなかった市場は、10年少々で16倍に膨れ上がる。その恩恵を受けたのが、「ラスベガス・サンズ」、「ウィン・リゾーツ」、「MGM」といったラスベガス系のカジノ運営企業である。

ラスベガス・サンズは本拠地のラスベガスに加え、米ペンシルベニア州でもカジノを運営しているが、13年には会社全体の収入の85パーセントをマカオとシンガポールで上げた。アジアでの成功によって同社CEOのシェルドン・アデルソン氏の資産は3兆円を超え、米経済誌『フォーブス誌』の世界長者番付でも第20位(2017年)にランクされるほどだ。また、ドナルド・トランプ米大統領の「盟友」としても知られている。

ラスベガス系のカジノ運営企業は、マカオとシンガポールで中国人を捕まえ、莫大な利益を得た。しかし今後、両都市は大きな成長が望めない。そんななか、彼らがアジア最後の「フロンティア」として狙うのが日本である。

日本にカジノが誕生した場合、少なくとも大都市につくられる大規模な施設の運営は、外資系が担う可能性が高い。日本企業にもフィリピンでカジノを運営する「ユニバーサルエンターテインメント」、韓国で現地企業と合弁でカジノに進出している「セガサミー」の例はあるが、実績では外資系とは比較にならない。

外資系には、日本でのカジノ運営権を得ようと「1兆円」規模の投資を表明している企業もある。投資をしても回収できると見込んでのことだ。

外資系は「パチンコ市場」の切り崩しを狙う

政府は、カジノの面積をIR全体の3パーセント以下に抑える方針だ。国民に反対が根強いことに目配りし、「カジノ」を全面に出したくないのだ。そんな姑息(こそく)な方針に対し、外資系カジノ運営企業から不満が噴出している。カジノが小さくなれば、投資の回収が困難になるからだ。

では、外資系は何をもくろみ、日本に乗り込もうとしているのか。答えは「パチンコ」である。

マカオでカジノ運営企業幹部を取材すると、決まって「パチンコ」が話題に上る。彼らはカジノによって、パチンコの巨大市場に切り崩したいのだ。

日本でのカジノ免許取得に名乗りを挙げている香港・オーストラリア系大手「メルコ・クラウン」のローレンス・ホーCEOも、かつて筆者の取材にこう語っていた。

「日本には多くの富裕層が存在し、人気の観光地として世界的な魅力もある。世界有数のカジノ市場になる可能性を秘めています」

外資系のターゲットはあくまで「日本人」であって、カジノ推進派が言うよな「外国人観光客」ではないのである。

日本のギャンブル市場の規模は、パチンコに競馬や競輪など公営ギャンブルを加えると6兆円とも言われる。その巨大市場が、カジノ解禁によって外資系に開放されるかもしれない。彼らが千載一遇のチャンスと考えるのも当然だ。

一方、カジノ解禁の原動力となった国会議員には、パチンコ業界と関係の深い政治家が多い。なぜ彼らは、競合関係となるカジノの解禁を推し進めたのか。その背景には、外資系の「おこぼれ」にあずかり、カジノで生き残りを図ろうとするパチンコ業界の思惑が垣間見える。(続く)

出井康博(いでい・やすひろ)
ジャーナリスト
1965年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。英字紙『The Nikkei Weekly』の記者を経て独立。著書に、『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社)『松下政経塾とは何か』『長寿大国の虚構―外国人介護士の現場を追う―』(共に新潮社)『年金夫婦の海外移住』(小学館)などがある。
(写真=Steve Vidler/アフロ)
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