冒頭のダイエットのケースで言えば、遠くの高いビルはスマートな自分、木はケーキである(図参照)。ダイエットを計画した1カ月前の時点では、スマートな自分はケーキよりずっと大きく、魅力的に見える。しかし、ダイエットを開始する予定日の前日になると、ケーキはスマートな自分よりはるかに大きく見える。結局、ケーキの誘惑に勝てず、ダイエットを先送りすることになってしまう。
現実に、双曲割引傾向の強い人ほど肥満傾向にあるという調査結果がある。過剰負債に苦しむ確率も高いという結果もある。締め切りを守れず、仕事を先送りする人は、要注意である。
米国で行われた次の心理学実験は、あまりの結果に同僚の間でもよく話題になる。学齢前の平均4歳の子供1人ひとりに、まず実験者がマシュマロを1つ見せてこう説明する。
「マシュマロを今食べてもいいけど、私が戻ってくるまで我慢できたら、もう1つあげる」
実験者が部屋を出た後、子供たちがどれだけ待てたかを測る(平均約6分)。10年後、同じ被験者で再び調査を行ったところ、驚くべきことに、過去の実験で長く待てた子ほど学力やストレス耐性、問題処理能力といった能力が全体的に高かったのだ。
マシュマロを待てるかどうかは、単に時間割引の高低だけでなく、目前の衝動的な欲望をコントロールできるかどうかという点で双曲割引の強さにも大きく依存すると考えられる。
双曲傾向の個人差は、親の教育などにも依存して、ごく幼い頃からかなり顕著に表れていると想像される。そしてそれは大人になってからの学業や仕事、生活にも影響を及ぼす。
※すべて雑誌掲載当時