応接室からは竹刀を振るう音と、連れていかれた行員の悲鳴が聞こえてくる……。

筆者もはじめてこの話を聞いた時には、わが耳を疑った。コンプライアンスやハラスメントが叫ばれるこのご時世に、まだそんな職場があるのか……。

ポストイットに「はやく、死んでくれ」

それだけではない。ある若い行員はこんなことも言っていた。同僚の行員からこんな電話がかかってきたのだと。同僚はこんな風に言って笑った。

「毎朝、自分の使っているデスクトップパソコンのモニターにポストイットが貼ってあるのだが、そのポストイットには毎日同じようにこんなことが書かれている。
それはこんな言葉だ。
『はやく、死んでくれ』
毎日、それをはがして机にしまっている。もうずいぶんたまったよ」
「誰がそんなことしているんだ?」
「支店長だ」

こんな異常事態に、本店はどうして対処しないのか?

筆者は思わず聞いてしまった。その若者はこう答えた。

「私たちのような肩書もないただの行員にとって、今でも支店長は絶対的な存在です。その支店長が、仮にどんなえげつない人物であっても、高い業績を上げている限りは、本店もコンプライアンス問題に目をつぶるのです。

ただ、業績を上げられなくなるとすぐに出向させられてその人は終わりです。銀行の子会社は銀行頼みの仕事をしているので、かつての支店長から仕事を紹介してくれと電話がかかってくるんです。われわれのようなかつての部下は、お世話になったと思う支店長には全力で仕事を回しますが、部下を虐げたかつての支店長の電話には誰も出ません」

この話、一般の会社に勤める友人に話すとみな目を見開いて驚くのだが、金融機関に勤める幾人かの友人に話してもそれほど驚く様子もなかった。

少なくとも現在の日本における銀行と、そこに勤める行員を取り巻く環境というのは、それほどひどいようなのだ。

銀行員は「ビジョン構築力」が弱い

では、先の見えない銀行を離れて、元銀行員は新たなキャリアを築けるのだろうか。

企業人材のアセスメントを手がける会社のマネジャーからこんな話を聞いた。銀行員に対して能力アセスメントを実施すると、おおむね「ビジョン構築力」は弱く、「実行管理力」は強い傾向にある。この傾向は勤続年数が長くなればなるほど顕著になると。

ちなみにこの傾向は、当然であるが、自分の生涯キャリアに対する考え方にも影響を与える。

ここで、これからのキャリア設計をアカデミックな見地からも補足したい。われわれは今後、どんな心構えでこれからのキャリアを捉える必要があるのだろうか。そして生涯キャリアの構築に巧拙というものはあるのだろうか?