結局、日本は、新しい現実に適応する柔軟性を見せなければならない。国益の確保を目指し、国際的活動に参加しながら、地域の安定を最優先で考えた行動をとっていくことが求められる。

憲法改正によって日本が果たすべきこと

2018年の国政では、憲法改正が大きな争点になるという。まずは憲法論争で不毛な議論を続け、国力を疲弊させることがないように、将来にわたって安定的な解釈を確定させることが重要だ。

私個人は、国際法と調和した憲法の運用を通じて、国際法と合致した武力行使や軍隊の管理ができるようになれば、最も望ましいと考えている。実は、ほんとうの日本国憲法典が予定しているのは、国際法と調和した国内制度の運用だ。

しかしいずれにせよ、憲法論争のための憲法論争を延々と繰り返すのは、そろそろ終わりにしたい。そのような行為を通じて、日本が自らの存在感を減らしていくのは、日本がかつてのような「ならず者国家」ではないことだけをアピールするのが目的であれば、意味があるかもしれない。国力が上昇している限りは、そういう無駄を持つことも必要だったかもしれない。だが現在は、そのような時代ではない。

国際情勢を厳しく見つめ、自国の国益を確保しながら、国際秩序の安定化のために自国がどんな役割を果たせるかを考えていくのでなければ、待ち受けるのは衰退の可能性だけだ。国際貢献を通じて、国際秩序と自国の国益追求をどのように調和させていくのか。日本がその問いに明快な答えを出すことが、東アジア地域や国際社会の安定と日本の未来につながる。

過去数十年にわたり、多くの日本人は、(見えないところで日米安保体制を確保しつつ)憲法9条を保持すること、そして世界2位の経済大国として途上国を援助することが、国際貢献になると考えてきた。それは「第2次世界大戦の記憶に訴えて何もしないことこそが日本の巨大な国際貢献である」、あるいは「国際経済を安定化させ、政府開発援助でも貢献することが日本の役割である」といった主張として強調されてきた。

そうした姿勢が無効になったわけではないだろう。だが、人口減少時代の継続的な国力低下によって、同じやり方だけでは効果が減少し続けるだけであることもまた、明白になっている。高い技術や丁寧な仕事ぶりなどの日本人が持つ美徳もあるが、いずれも相対的な要素であり、どの程度まで、どれくらいの間、効果があるのかは、不透明である。

よりいっそう戦略的に、国際社会の中で、自国を冷静に位置づける分析的視点が必須だ。そのうえで、現実的な国際貢献を着実に果たしていくことによって、日本が国際社会の重要なメンバーであることを強調していきたいものである。

篠田英朗(しのだ・ひであき)
東京外国語大学教授 1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大学大学院政治学研究科修士課程修了、ロンドン大学(LSE)大学院にて国際関係学Ph.D取得。専門は国際関係論、平和構築学。著書に『国際紛争を読み解く五つの視座 現代世界の「戦争の構造」』(講談社選書メチエ)、『集団的自衛権の思想史――憲法九条と日米安保」(風行社)、『ほんとうの憲法 ―戦後日本憲法学批判』(ちくま新書)など。
(写真=KCNA/UPI/アフロ)
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