寒くなってきたら温まるものを、というのが薬膳

秦の始皇帝が中国を統一するまでを描いたマンガ『キングダム』が大変な人気を博していますが、紀元前403年から秦による中国統一がなされる紀元前221年までを中国の戦国時代と言います。この時代以降に戦国時代前に存在した周王朝の理想的な制度を記したとされる書物で周礼(しゅらい)があります。

この周礼では、4種類の医者の官位に触れており、最高位が王の食事を調理・管理する「食医」で、そこに「疾医(内科医)」、「瘍医(外科医)」、「獣医」が続きます。医学が発達していなかった時代とは言え、まじない祈祷の類に頼らず、食に健康の根源を求める点に薬膳のルーツがあります。

薬膳とは料理ではなく、食事の選び方と食べ方、と考えた方が理解しやすいでしょう。古代中国の食医は王の食事担当でしたから、気候が寒くなってきたら体が温まるもの、戦乱の兆しが近づき心労が重くなりそうになると滋養がつきつつも消化によいもの、といった具合に王の体調に合わせて料理を選んでいたことでしょう。

これが薬膳の真意です。したがって、基本的にはありとあらゆる料理が薬膳となる可能性があります。大切なのは、いま体に必要なものを選んで食べる、という考え方です。

母さんのスープの鍋ごと社長にプレゼント

いま体に必要といっても、体調なんて千差万別ですから、一気にハードルが上がるような印象がありますが、とっつきやすい薬膳をご紹介してまいりましょう。今回は薬膳の基本のキとしてスープをご案内します。

スープと言って、私が思い出すのは香港の街です。香港の方々は本当によくスープを飲みます。食事の最初には必ずといってもいいほど温かいスープを飲みます。小汚いというと失礼ですが、街中で地味な印象のスープ屋さんを見かけます。

このスープ屋さん、私が東洋医学や食養生に目覚めたきっかけの場所です。香港を歩くとそこかしこからさまざまな食べ物の香りが漂ってきます。朝食時の粥屋さんからは、なんとも空腹を刺激する芳しい香りが流れてきますし、有名な亀ゼリーの店先を通りますと、あるスープ屋さんが忘れがたい匂いを放っています。

何とも表現しがたい香りの店先で、はてこういった店にはどのようなお客さんがいらっしゃるのだろうと眺めていたところ、20歳くらいの若い女性が入っていきました。

堪能とはとても言えない私の中国語力で小耳にはさんだ会話というのは、

「おじさん、あたし今日はちょっと喉が痛いの。風邪でもひいたのかしらん」

「あいよ、ならこのスープを飲んでいくといい」

といった感じのもの。なるほど香港の人々がスープを飲むというのは本当の話なんだなと思い、当時、商用で訪れた日本人の社長さんにそのエピソードを話したところ、

「そうですよ、香港の人が持っているスープのレシピってのは、大したものですよ。私も会社でちょっとでも咳をしようものなら、翌日にはうちの社員の若い子が『社長が風邪をひいたらいけないから、お母さんに頼んでスープを作ってもらいました』って鍋ごと会社に持ってきたりするんですよ」

と笑っておられました。