尺が正しくないと、しゃべっている途中で終わってしまう見栄えの悪いエンディングになりかねません。そうならぬように、締め切り直前まで出演者になりきって読み合わせをしています。ストップウォッチをにらみながら、同じようなセリフを何度となくつぶやきます。正直、その瞬間の私はかなり鬼気迫っている状態だそうです。特に「世界卓球」中継の場合、女子アナウンサーがまとめのトークをすることが多く、なりきって読むと“おネエ口調”が加わるので、はた目にはかなりキツイ感じに映っているかもしれません。間に合わすためにはこの方法しかないので、なんと思われようが続けていきますが。

これまでに原稿が間に合わなかったことはほぼありません。長年、この仕事をやっていてもさして誇るべきスキルはないのですが、ことスポーツ中継でとっさに原稿をまとめる能力だけは自信があります。ほかにはあまり転用のきかないテクニックですが。

状況次第で資料を作り直すスキル

とはいえ、事前に準備していたものを、状況に合わせてまとめる能力は実社会においても使えます。「企画書やプレゼンで長々と説明してしまう」という悩みをよく聞きます。効率化を考えると、最初から短くまとめるようにアドバイスされると思いますが、それができるならば苦労はしません。時間はかかるでしょうが、まずは自分が書きたいことを長々と書いて、そこから省いていくことで短い文章やプレゼンにしていくことをお勧めします。つじつま合わせの苦労はありますが、重要なものとそうでもないものを見つめなおすことにもなります。

最初のうちは、どこを縮めるか悩むことも多いでしょうが、場数を踏めば瞬時にカットすべきところが見えてくるようになります。文章作成ソフトを使えば、簡単にコピー&ペーストができます。この機能を活かさない手はありません。丁寧に順序だてられたプレゼン原稿を思い切って、いきなり本題からコピペしてみる。強調したいがゆえに繰り返している部分をカットして、その分で説明に厚みを加える。

まずは過去に作った、手元にある長めの文書をちょっといじってみてくだい。今までの自分の書いたものとはちょっと違う端的な作品になるはずです。この作業を繰り返していれば、最初から短く的確な資料を作れるようになってくると思います。

村上卓史(むらかみ・たかふみ)
作家・放送作家
1966年生まれ。大学時代にテリー伊藤に師事し、放送作家としてデビュー。スポーツ番組やバラエティ番組を得意とし、TBS『炎の体育会TV』『学校へ行こう!』、フジテレビ『みんなのKEIBA』『ジャンクSPORTS』などを担当。日本放送作家協会理事。東京馬主協会会員。
関連記事
なぜ日本の芸人は"風刺ネタ"を避けるのか
外国人が大ウケする『ガキ使』の名物企画
全員からのツッコミを誘う「ボケ」の作法
目を引くタイトルはどうすれば作れるか?
萩本欽一インタビュー「ボクは30代は『頭』、40代は『目』で頑張った」