リクルートが手がければ何をやっても勝てる
あの当時、私がいたリクルートは優秀な人材が集まることでも、社員のモチベーションが極めて高いことでも知られていた。私には、リクルートのように優秀な人材を集めるにはどうしたらいいのか、彼らがものすごくやる気を出して働くにはどうしたらいいのか、あるいは独立して離れていかないためにはどうしたらいいのかということが、ずっと気になっていた。
リクルートは、自社で発表する企業の就職人気ランキングに自分たちを入れていなかったが、もし加えていたら1位だったのではないか。リクルートには自社の採用のために精鋭ばかりを集めた100人くらいの専任部隊がいて、ほしいと思った学生は電通や博報堂と競合しても採っていた。
採用のための費用も、自社媒体を使ってのリクルーティングで広告費がほとんどかからないにもかかわらず、1人を採るために800万円をかけていた。1000人を採るのに80億円だ。一方で、本来であれば研究職につくような理系出身の秀才をもっていってしまうことで、問題にもなっていた。
私は営業職だったが、採用支援をしていた取引先の中小企業へ営業にいくと、リクルートとは人材のレベルがまるで違っていた。
こんなので勝負になるわけがない。リクルートが手がければ、何をやっても勝てるだろうと思っていた。89年に贈収賄事件で創業者の江副浩正会長が逮捕される前のことだ。
優秀な人材を集めるには、本格的な新卒採用が必要であることはわかっていた。そのためには、学生がこんなところで働きたいと思うような高層ビルのオフィスでないと駄目だし、やはり大会議室が必要だ。熱帯魚が泳ぐ水槽もほしい。
高層ビルにはそれまで何度もチャレンジしたが、貸してもらえずにいた。そんなとき西新宿に300坪の物件が空いたという。44階建てビルの20階だ。それでも保証金がなかったので、無理だろうと思いつつ、銀行へ相談にいったところ、融資が下りてしまった。