「逸失利益」もプラスで、900万円のケースも
慰謝料の額については、行為内容、期間あるいは被害の程度を考慮して判断することになるため、一概に語ることはできないが、労働事件を扱う弁護士としては、それなりの相場観を持っている。あくまで私の個人的な相場観をお伝えしよう。
身体的接触行為がないケースでは、80万円を一つの基準としている。身体的接触を伴うケースでは、160万円を一つの基準としている。この基準を始まりとして、行為の内容、被害の程度、期間などを反映して調整していくことになる。
これらは、慰謝料だけの話である。仮にセクハラで退職を余儀なくされた場合には、逸失利益が損害として認定されることがある。ここでいう逸失利益とは、退職しなければ得られたはずであろう将来の収入と言っていい。肉体的関係に至ったケースで、慰謝料が30万円とされつつも、逸失利益が900万円とされた事案もあった。
最後まで面倒を見るのが、経営者の責任
一般的に、セクハラの慰謝料について「低すぎる」との批判がある。過去の判例からすれば、50万円以下という低額の慰謝料が多い。飲み会で女性の肩に手をかけた事案では5万円だった。今後は、高額化するのではないかと考えている。誤解していただきたくないのは、損害賠償をすれば、被害者の被害が回復されるわけではないということだ。被害者としては、「お金の問題ではない」というのが正直なところであろう。
女性のなかには、セクハラをきっかけに退職する方が少なからずいる。いくら謝罪をされ、賠償金をもらっても、「被害者」と「加害者」という関係は変わらないため、同じ職場で働くことは難しいことが多い。
こういう場合には、経営者としても、再就職先を手配するなどのフォローを人として怠ってはいけない。誰かを採用するとは、その人の人生を背負うことだ。最後まで面倒をみることが、経営者の責任ではないだろうか。社員が見ているのは、そういった不器用ながらも努力するひたむきな社長の姿だ。