処分は必ず、社長自身が下すこと

さて残る問題は、加害者に対する処分である。「実力者だけに辞められるのも困る」と不安に駆られて、何も言い出せない若い経営者も散見される。こういうときに「島田さんが対応して」と言われるのがオチだが、引き受けることはない。ここで社員と対峙することから逃げると、いつまでも"真の経営者"になることができないからだ。

中小企業において、社員は会社ではなくて経営者を信じて勤務している。その社長が問題のある社員への対応から逃げていたら、他の社員は一体どのように感じるだろうか。きっと「面倒なことは全部弁護士に任せるんだね。お金のある人は楽でいいよな」と失望されてしまう。

弱腰だった経営者が、加害者である社員にしかるべき処分を言い渡したとする。加害者のなかには、激高する者もいれば、退職する者もいる。自分も弁護士をつけて訴えるという者もいるだろう。相手がどう出るかは読めない。読めないことを悩んでも、しかたがない。争いになれば、そこからは私の出番だ。

ここで大切なことは、「経営者自身が自分の言葉で処分を下す」ということだ。これさえできれば、他の社員の見方が変わってくる。処分が不当として裁判沙汰になるかもしれないが、そこで社員からの評価が下がることはない。

劉備、徳川家康など、逃げることで地位を作り上げた人物は多数いる。ただ彼らは、逃げてはならないところで逃げなかったからこそ、地位を作り上げたともいえる。経営者とて同じであろう。

初めから優秀な経営者などいない。誰しも、成功と失敗を経て、優秀な経営者に「育つ」のである。最後にアメリカの心理学者・哲学者であるウィリアム・ジェームズの言葉を書いておこう。「苦しいから逃げるのではない。逃げるから苦しくなるのだ」。