テクニック3:間接的に言い換える

「ひどい」「つらい」「面倒くさい」など、ネガティブな形容詞は人の気持ちを暗くします。自分の文章を読んでくれる人を不快な気持ちにしないように、そうした直接的な形容詞を避ける言い方を身につけることが必要です。ここでは「つまらない」という形容詞を考えてみます。

・会議がつまらなかった。

後ろ向きな発言は社内の士気を下げるので、可能な限り前向きな言い方を心がけたいものです。

(言い換え例)
・今日は、意味のある人にとっては意味のある会議だったかもしれないね。

会議自体を否定せず、議題を問題にすることもできるでしょう。

(言い換え例)
・今日の議題は、ルーティンの内容が多かったので新鮮味に欠けたね。

次は、レストランのクチコミサイトへの書き込みです。

・フロアとキッチンのやりとりがうるさいです。

形容詞の場合、ネガティブな表現をポジティブな表現に変えることが可能です。たとえば、「暗い人」は「物静かな人」に、「強引な人」は「積極的な人」「大胆な人」に、それぞれ言い換えられます。

例文の「うるさい」という形容詞は直接的すぎて不快感を覚えます。次のように言い換えると鋭さを和らげることができます。

(言い換え例)
・フロアとキッチンのやりとりには活気はありますが、少々にぎやかすぎました。

ネガティブな形容詞は読み手を不快にします。また、自分もそうした見方に縛られてしまいます。現状を明るい方向に向かわせるためにも、ネガティブな形容詞を慎む心がけが大切です。

「表現の変化球」を身につけよう

ピッチャーの投球にたとえるならば、形容詞はまっすぐな「ストレート(直球)」です。形容詞を使えば、短く、はっきりと自分の感情を表せます。しかし、書き言葉(文章)の世界でストレートを多用すると、一本調子で平板な文章になり、読む側が足りない要素を「忖度」して読まなければなりません。

大人の文章には、ストレートだけでなく丁寧な描写、気遣いなど「表現の変化球」も必要です。緩急をつけることで初めて、言葉は読者の心に届きます。よく知られているように、小説家やエッセイストは言葉の力を弱めないために、研究者やジャーナリストは言葉の精度を高めるために、形容詞を避けるように努めています。ぜひ参考にしてください。

石黒 圭(いしぐろ・けい)
国立国語研究所教授、一橋大学連携教授
1969年大阪府生まれ。神奈川県出身。国立国語研究所日本語教育研究領域代表・教授、一橋大学大学院言語社会研究科連携教授。一橋大学社会学部卒業。早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。専門は文章論。『論文・レポートの基本』(日本実業出版社)など著書多数。
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