事業の多角化で成長を目指すはずだった

納入先や株主などからの賠償請求も必至だ。エアバッグ大手のタカタは、リコール問題でおよそ1兆7000億円の負債を抱え、17年6月に経営破綻した。組織ぐるみの不正隠しや後手後手の対応、取引先からの巨額の賠償請求などは、タカタの事例を思い起こされる。

また本来は関係のないところにも悪影響が及んでいる。神戸製鋼は国内トップレベルのラグビー部がある。この問題が長引けば、部の存続にかかわるような事態にも発展しかねない。そうなれば2019年に日本で開催されるラグビーワールドカップにも影響が及ぶ。

また1990年から毎年開催していた「神鋼かこがわフェスティバル」は、今年は中止になった。このイベントは加古川製鉄所構内や、隣接する陸上競技場・野球場・体育館等を会場として、「地域のお祭り」として定着していたもので、16年には約8万人が来場した。楽しみにしていた子供たちも多かったはずだ。

データ改ざん問題が起きる前、神戸製鋼の経営体力はどうだったのだろうか。2017年3月期決算は、売上高1兆6958億円、当期純利益は230億円の赤字だった。

過去5期で最終赤字が3回あるように赤字傾向にあるが、キャッシュ創出額(5期平均の営業キャッシュフロー)は1264億円と、投資出金額(5期平均の投資キャッシュフロー)の1003億円を上回っており、キャッシュベース経営としては、特段な問題点はなかった。

その他の主要科目は、出資比率に応じて取り込む関連会社の利益は18億円の黒字。売却可能な有価証券は455億円。マンション販売やビル賃貸などを手がける不動産の子会社を抱えているが、帳簿上の土地価額は1956億円。これまでの利益の蓄積を示す利益剰余金は3316億円である。

株価上昇による売却益獲得といった純投資を目的としない、いわゆる持ち合い株は、トヨタ自動車や新日鉄住金など240銘柄、帳簿価額は1144億円である。

一方で、今回の問題が明らかになる直前に三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)が、保有する神戸製鋼株の一部を売却している。今後は持ち合いで保有している神戸製鋼株を売却する動きが出てくる ことが予想される。

神戸製鋼の株式を所有している主な企業の代表は、大株主として名を連ねている新日鉄住金、日本生命、みずほ銀行だ。それに三菱マテリアル、大同特殊鋼、丸一鋼管、淀川製鋼所、関西電力、電源開発なども所有。ゼネコンの大林組、鹿島、西松建設の3社はいずれも、簿価が10億円台に相当する122~185万株を所有している。

利子をつけて返済しなければならない有利子負債は7969億円。主な借入先は日本政策投資銀行、みずほ銀行、三菱東京UFJ銀行などで、そのほか取引銀行が設定している融資枠の残りとして約1240億円ある。

神戸製鋼は以前から新日鉄住金とは資本業務関係にある。ただし、12年10月に新日本製鉄と住友金属工業が経営統合、新日鉄住金としてスタートするにあたっては、独自路線を歩むことを選択。事業の多角化で企業の継続成長を目指す、とした経緯がある。

事実、赤字に陥りやすい鉄鋼事業や建設機械事業を、アルミ・銅、電力事業でカバー。とくに、自動車用アルミ材は、軽量化を進める自動車メーカーがボンネットやドアに採用を増やす傾向にあり、神戸製鋼の業績アップに貢献すると期待されていた。