「ついでにお願い!」をできるように
冒頭でもご紹介の通り、現在のルールでは、訪問介護サービスで要介護者(おばあちゃん)の食事を作る際に同居家族分も一緒に作ることや、ヘルパーさんが煮込み料理をしている待ち時間に、家の共有スペースを掃除することは難しい。介護保険で決められた通りに「おばあちゃんの食事を作るだけ」、「料理に専念するだけ」。これが基本となる。また、お気に入りのヘルパーさんを有料で指名することもできない。
もしこれらが柔軟に提供できるようになれば、おいしいご飯を食べたいおばあちゃんだけはなく、おばあちゃんの介護をしながら仕事をしている家族にも、料理が上手なヘルパーさんにもそれぞれメリットがある。おばあちゃんはなじみのヘルパーさんに、自分ができない家のことを安心して任せることでき、家族は家事の負担を抑えることができる。また、ヘルパーの仕事の多くは朝・昼・夕方に集中しており、日中も働きたくても仕事がないケースもあるため、もっと働きたいというヘルパーにとっては仕事が増え、収入も増えることにつながる。事業者としてもヘルパーの仕事が増えることで退職の防止につながる可能性があり、事業者としての収入も多少増えることにつながる。
現状の混合介護に関する議論の中心は、例えば、介護を受けている人とその家族分の料理といったような家事のサポートをいっぺんにできないか、調理の合間に短い時間でできる掃除やペットの世話などを提供できないか(これらを「保険内外のサービスの同時一体的提供」と言う)、料理上手で顔なじみのヘルパーさんを指名できないか(これを「付加価値相当分の料金徴収」と言う)について、柔軟な対応ができないか、というものだ。
東京都豊島区は混合介護をメニュー化
さらに混合介護の世界では上記で例示した「保険内外サービスの同時一体的提供」と「付加価値相当分の料金徴収」以外にも、もっと多種多様なサービス提供を可能にしようという取り組みが始まっている。
先進的な取り組みで知られる東京都豊島区では、介護事業者や利用者のニーズを元に、幅広くモデル事業の内容を検討している。モデル事業では。混合介護を利用しやすいようにメニュー化して提供する。
例えば、部屋を掃除するついでに愛犬の世話をしたり、お風呂の準備の時間にテレビ電話の使い方を教えたり、デイサービスの送り迎えの途中に日用品の買い出しでコンビニに立ち寄ったり、デイサービスの場で夕食用のお総菜を販売したり……。これらは簡単にできそうであるが、柔軟に実施することには障壁がある。
この障壁を乗り越え、利用者、家族、介護事業者それぞれにとってメリットがあり、それほど追加負担も必要とせずに混合介護を利用できるよう、東京都・豊島区では図表2に示すようなサービスメニューについてモデル事業で実施することを目指している。